第十六章 闇を照らす光 (11)
深い闇に包まれた王城の中庭を囲む回廊を、松明の灯りが照らし出す。しんとした中庭の闇に沈んだ木々の葉を揺らす風の音だけが、回廊を歩くカレンとミメイの耳に届いてくる。
宴席で舞いを披露し終えたカレンは帰り支度を済ませ、王城を出て行くところだ。二人の間に会話はない。カレンの顔から広間で舞いを披露した時の明るさはなく、俯き気味で疲れを露わにした表情とともに足取りは重い。半歩後ろを歩くミメイはカレンを気遣い、何度も視線を送っている。
カレンは自分たちとは異なる足音に気づいて顔を上げた。前方の人影に目を凝らすと、二人の大柄な男性が肩を揺らして向かってくる。警戒したミメイがカレンを庇って進み出る。
「ミメイ、大丈夫。お父様の護衛よ」
急ぎ足でこちらに向かってくる男らが父の護衛の部下たちだと、カレンが先に気づいた。さらに目を凝らすと、護衛の一人が何かを抱えている。
間もなく男らもカレンに気づいて足を止め、回廊の脇に寄って道を開けた。
そして抱えている物を隠すように、カレンに深々と頭を下げる。不審に思ったカレンの目に映ったのは護衛の腕に抱きかかえられた人の姿。護衛の男ががっしりとした体格のため華奢に見える男性の衣装には、確かに見覚えがある。
「顔を上げて、そちらは?」
護衛の男らは躊躇いながらも顔を上げる。護衛の腕から仰け反った男の顔を確かめ、カレンは目を見張った。
「リョショウ殿? いったい何があったのですか?」
「はい、宴にて酔い潰れて眠ってしまったため、部屋で休ませよとの命でございます」
護衛が頭を下げると、垂れ下がった腕がぶらりと揺れる。泥酔と聞いたカレンは、嫌悪と共に顔を曇らせた。
「なんということ……だったら、こんな所まで連れて来なくとも、広間の控え室でも十分休むことができるでしょう?」
カレンは舞の衣装への着替えのため、広間から離れた王城内に特別に部屋を与えられている。しかし通常、宴の出席者は広間の傍にある控え室で休憩することになっている。控え室には何台かのベッドも用意してあり、寝るには問題はない。
「特別に部屋を用意せよとの命でございます」
「そう……わかったわ、早く休ませてあげて」
警護の男らは礼をして、回廊の奥へと消えていく。
「酔い潰れたんですって……」
ぽつりと零して、カレンは王城を後にした。