第十六章 闇を照らす光 (10)
倒れ込むリョショウの身体を、ハクランが素早く抱き留めた。ぐったりと目を閉じたリョショウに何度も呼び掛けるが、僅かに開いた唇から息が漏れるだけで返事はない。
「リョショウ、しっかりしないか! 恥を晒すな」
東都都督が怒り、叱咤する声もリョショウには届かない。案じて歩み寄るシュセイを、丞相の声が引き止めた。
「いかがなさいました? お加減が優れないのであれば、部屋を用意いたしましょう。少しお休みになるとよろしいでしょう」
どこからか二人の男性が駆け寄ってくる。眉間にしわを寄せて不快感を露わにする東都都督に、シュセイが訊ねた。
「東都殿、いかがなさいますか? 私が屋敷に連れて帰っても構いませんが……」
「シュセイ殿、気になさいませんよう、陛下のお許しもいただいてあります。気分が晴れましたら、またこちらに戻ることもできましょう」
シュセイの声を遮ったのは丞相だった。蔡王も立ち上がり、心配そうにリョショウを覗き込んでいる。
「東都殿、遠慮することはない。ゆっくりと休める部屋を用意させよう、心配は無用だ」
心配そうにリョショウを覗き込む蔡王が、穏やかに呼び掛ける。
東都都督はシュセイに小さく頷いた。蔡王が部屋を用意すると言うのであれば、断るわけにもいかない。シュセイは頭を下げて席に戻った。
駆け寄ってきた男性は二人とも大柄で体格がよく、一人でリョショウを軽々と抱き上げることができた。既に意識が無いリョショウは、腕をだらりと垂らす。
去ろうとする男性をハクランが呼び止める。
「私もついて行きましょう」
「ハクラン殿、それには及びません。ご心配は無用です。さあ、宴を続けましょう」
丞相が告げると、男性の一人がハクランの前に立ちはだかった。むっとした顔で見上げるハクランに、男性らは無表情な礼をして広間を出て行く。
「ハクラン殿、気にすることはない。アイツは放っておいて、私たちは飲み直そう。せっかくの陛下のご好意なのだから」
東都都督は男性らを見送るハクランに言って、蔡王へと深々と頭を下げた。蔡王は顎髭を撫でながら、頷いて返す。
「気にするな、出来は良いが強い花香酒だ、彼には合わなかっただけだろう。少し休ませてやるといい。さあ、まだ酒はある、どんどん飲んでくれ」
蔡王が合図すると、宴席にさらに酒が運ばれてきた。