第十六章 闇を照らす光 (7)
しんと静まり返った宴席で、皆の視線は壇上の蔡王へと注がれている。蔡王とシュセイが黙って見つめ合う姿を前にした皆の緊張感が高まり、広間全体が張り詰めた空気に包まれていく。
険悪な空気が漂い始めたことに危機を感じた丞相が、遠慮がちに身を屈めながら蔡王の前に進み出た。蔡王に恭しく一礼した後、シュセイの方へと向き直る。
「シュセイ殿、貴方の仰りたいことはわかりますが、今はその時ではありません。その件については明日、必ず伺うと約束致しましょう。どうぞ今夜は宴をお楽しみくださいますようお願いたします」
穏やかな声で言い聞かせるような口調だが、丞相の眼光は鋭い。この場は引き下がるようにと言葉に込められた威圧感は、シュセイだけではなく宴席の誰もが感じ取ることが出来た。
しかしシュセイは臆する様子も見せず、悠々とした表情で丞相を見上げている。まるで時間が止まったかのように、二人は視線を交えていた。
ゆるりとシュセイが両手を合わせて丞相から視線を逸らし、蔡王へと礼をした。
「わかりました。明日必ず御報告させていただきます。陛下、宴を妨げてしまいましたことをお許しください。失礼いたしました」
詫びて引き下がるシュセイの姿に、広間に張り詰めていた緊張が一瞬にして解れた。
ほっとして表情を緩ませた蔡王が、大きく頷いて立ち上がる。後ろに下がった丞相は、満足げな顔を隠すように頭を下げた。自席へと戻っていくシュセイを見送りながら。
「さあ、今宵は東都殿らの生還を盛大に祝おうではないか」
蔡王が杯を掲げると、広間に安堵のざわめきと杯を酌み交わす賑わいが戻り始める。蔡王からの命を受けた丞相が、カレンへと合図を送った。
やがて柔らかな琴の音が響き始めた広間の真ん中に、艶やかな衣装に身を包んだカレンが進み出る。カレンは壇上と東都都督らに礼をして、しなやかに舞い始めた。
「西都の宰相は、困ったものだな」
杯に酒を注ぐ丞相に、蔡王がそっと耳打ちする。丞相は頭を垂れたまま声を潜めた。
「彼も……ご検討なさいますか?」
「それも必要かもしれん、まずは段取りどおりに……頼んだぞ」
ふくよかな顎鬚を撫でつけながら、蔡王はカレンの舞いに目を細めた。