第十六章 闇を照らす光 (4)
今にも丞相に掴みかかり、問い質したい衝動がリョショウの胸に湧き上がる。モウギに命じて自分たちを消そうとしていたにも関わらず、すべての責任をモウギに擦り付けようとする態度が気に入らない。
丞相に対する不信と怒りに震えるリョショウの肩に、ハクランの手が触れた。振り返ったリョショウに顔を寄せて、そっと耳元で囁く。
「落ち着け、今はまだその時ではない」
「しかし……」
ハクランの手を振り払い、反論しようとしたリョショウは自分を見つめるソシュクの視線に気付いた。リョショウの怒りを汲み取るように大きく頷くソシュクを見て、リョショウは何も言えなくなった。
命の恩人であるソシュクが、宥めるような優しい目で見つめている。ここで事を荒立てることは決して誰も望んでいないと言い聞かせるように。
『わかった』と返すようにリョショウは目を伏せて唇を噛んだ。
「ところで、陛下にはいつお会いすることが出来ますか? 一刻も早くお会いして、今回の件について報告をさせていただきたいのですが、段取りを願えませんでしょうか」
しばらく黙って屋敷の庭を眺めていたシュセイが丞相に訊ねる。リョショウを始めとする皆の不安を一掃し、前に進むようにと促すような凛とした声。皆が顔を上げて、丞相を見据える。
「御心配はなさいませんよう、陛下は東都殿の御帰還を心より喜んでおられます。今夜にでも祝宴を開くようにとの命を受けておりますが、皆さまの旅の疲れはいかがなものでしょう? まだ疲れが残っているようでしたら明日にするよう陛下にお話しさせていただきますが……いかがでしょう?」
丞相はシュセイの言葉にもうろたえることもなく、穏やかに答える。
自分には何も疾しいことはないという自信に満ちた態度に、リョショウの怒りはさらに募るばかりだった。
「大丈夫だ、今夜と言わずとも今すぐにでもお会いしたいぐらいだ」
東都都督ははっきりとした口調で答えながら、皆の顔を見回す。するとシュセイもにこりと微笑んだ。
「私も大丈夫です、陛下のお心遣いに心より感謝いたします。どうぞよろしくお伝えください」
「承知いたしました。陛下にお伝えいたします。準備が整いましたらご連絡いたしますので、暫しこちたでお休みください」
丞相は深々と礼をすると、屋敷を出て行った。