第十六章 闇を照らす光 (3)
丞相の登場により、東都都督ら一行はすぐに都督府に入ることが出来た。但し、都督府の中にも屋敷の中にも東都都督の部下の姿はない。そこに居るのはすべて、丞相の配下の者たちばかりだった。
「妻の姿が見えぬが、どこか別の場所へ移ったのか?」
都督府から隣接する屋敷へと向かった東都都督は妻の姿がどこにもないことを不審に思い、すぐに丞相に訊ねた。すると丞相は顔を曇らせて答えにくそうに頭を下げる。よくない知らせと察した東都都督の表情が強張った。
「はい、体調を崩されたため王宮内の離れにて療養いただいております。王宮内のため、今すぐにお会いになることは出来ませんが、出来る限り早く会えるように段取りをいたしますのでお待ち願いますよう」
「丞相、どういうことだ? 私が北伐へ向かう時はどこも悪い様子も無く、見送ってくれた。それがどうして……すぐにでも手配をしてくれ」
東都都督が顔色を変えて詰め寄るが、丞相は目を閉じて首を横に振った。
「東都殿の安否を気遣い、心労が重なったのでしょう。東都殿がお戻りになるおよそ三ヶ月ほどの前に突然倒れられました、事情を知った陛下のお気遣いで、王宮内にて療養していただけるようにとのことになった次第です」
「なんということだ……」
「丞相殿、お待ちください。それは私が北都殿の娘リキ殿と共に陛下に助けを求める謁見を願うため、東都へ戻ってきた頃です。その時には母は屋敷にいたと聞いておりますが、母が倒れたのはそれからすぐということですか?」
東都都督と丞相のやり取りを聞いていたリョショウが進み出て、強い口調で問いただす。
リョショウは丞相の態度に苛立ちを感じていた。東都都督ら一行の中に自分の姿を認めながらも、東都へ戻ってきたことには一切触れず、あたかも今初めて戻ってきたかのような扱いをしていることに対して。
あの時、リョショウとリキが共に東都へ戻り、陛下へ謁見を願い出ていたことを丞相は知っていたはずだ。それを阻んだのは丞相であり、自分たちの存在を消そうとしていたのも丞相であったに違いないのだから。
「申し訳ありませんが、リョショウ殿が北都殿のご子女と東都へお戻りになった事実は存じ上げておりませんので」
丞相は首を傾げて、あくまで知らないと言い切る。リョショウは固く拳を握りしめた。