第十五章 北都奪還 (10)
ハクランはリョショウの肩に回していた手を解き、二人は裏口の扉の前で向き合った。
リョショウがきゅっと唇を噛む。
「話って何だ?」
急かしながらも落ち着いた表情で問いかける。リョショウが何か重要なことを話そうとすることは、ハクランも感じ取っていた。おおよその心の準備は出来ていたのだ。
「リキのことだ、俺は明日、父とともに東都に戻る。リキがここに戻ってきた時、俺はここにはいない。だが、東都を平定したら俺は再びここに戻ってくるつもりだ」
ゆっくりとした口調で自分に言い聞かせるように、リョショウは告げた。ハクランはとくに驚く様子もなく固く口を噤んだまま、リョショウを静かに見据えている。
ハクランの反応を確かめて、リョショウは再び口を開いた。
「俺は、リキを迎えに戻ってくる」
「戻ってくるな、と俺が言うとでも思ったか? 俺にお前を止める権利はない、お前がここに戻ろうが俺の知ったことではない。ただ、リキのことは譲れない。お前がここに戻ってきたとしても、リキを一緒に連れて行くことは絶対に許さない」
穏やかな声に込められたハクランの意思の強さにリョショウははっとした。
ただの幼馴染ではない、リキに対する思いの深さが声と表情にはっきりと表れている。
互いに穏やかな表情を崩すことはないが、黙って見つめ合う二人の間に強い思いがぶつかり合う。しんとした冷たい空気が、遠慮がちに二人の髪を揺らしながら通り過ぎていく。
ほんの僅かな時間だったが、とても長い時間のように感じた。
ハクランの腕がゆっくりと動いた。
咄嗟に身構えるリョショウの肩へ、ゆっくりと伸びた腕がぐいと抱き寄せる。
「そんなに固くなるな、もう何もしない。リキはお前の気持ちを知ってるのか?」
ハクランがくすっと笑って問う。またハクランと争うのかと思っていたリョショウは、不意を突かれてむっとした顔をした。
「俺の気持ちは伝えてある、この腕を放してくれないか」
窮屈そうな顔で腕を解こうとするリョショウを抱えて、ハクランが扉へと手を伸ばす。
「いや、放さない。逃げられたら困るからな。いい話を聞けた、ありがとう。さあ、飲みに行くぞ」
「俺は行かない、もう放してくれ!」
ハクランは嫌がるリョショウを連れて屋敷の中へと戻って行った。