第十五章 北都奪還 (9)
リキも、この星空を見ているのだろうか。手を伸ばせば届きそうなほど間近に見える星たちが、夜空いっぱいに散りばめられている。今にも零れ落ちそうな星空を見上げながら、リョショウはリキを思いながら目を細めた。
リョショウの隣では、ハクランも黙って空を見上げている。静寂の時を言葉も交わさず、星空を見上げる二人は表情も気持ちも穏やかだったが、密かに互いの気持ちを気にしていた。
二人の見上げる先、夜空に一筋の光が流れ落ちていく。
「あっ……」
ハクランが声をあげた。空を見上げたまま口を噤み、闇に溶け込んでいく光の残像を追いかける。しばらくして、ふうと息を吐いたハクランはリョショウを振り向いた。
「何を願ったんだ?」
「内緒だ、教えたら叶わなくなるだろ」
リョショウが問いかけると、ハクランは無邪気な笑顔で答えた。
思わず吹き出しそうになって、リョショウは目を逸らす。がっしりとした体格の男が、流れ星を見つけて真剣に願いをかけていることがなんだかおかしくて。
「何がおかしい?」
リョショウの反応に気付いて、ハクランが言い返す。その顔を赤く染め、恥ずかしそうに口を尖らせて。
「いや、可愛いなと思っただけだ」
「バカを言うな! また痛い目に遭いたいか!」
真っ赤な顔をして凄むハクランを見て、リョショウは堪えきれなくなって笑い出した。ハクランの素直でわかりやすい態度がおかしい。さっきまで争っていたハクランの純粋な一面を知り、リョショウは笑いが止まらない。
ハクランはすくっと立ち上がり、笑い続けるリョショウの腕を掴み上げた。
「飲み直しに行く、酔いが醒めた。お前のせいだ、責任を取ってもらおう」
リョショウを無理矢理に立たせたハクランは、意地悪そうな笑みを見せる。それを見たリョショウは顔を引き攣らせた。
「俺は行かない、ひとりで戻れ」
「今度は、酒で勝負だ」
「は? そんな勝負には乗らない、俺は酒が嫌いなんだ!」
「明日帰るんだろ? 今日ぐらい俺に付き合えよ、男なら潰れるまで頑張ってみな」
ハクランはうろたえるリョショウをがっしりと抱えて、裏口の戸に手を掛ける。
「バカな、潰れたくない! ちょっと待て、お前に話しておきたいことがある」
必死で足を踏ん張って抵抗するリョショウを振り返り、ハクランは首を傾げた。