第十五章 北都奪還 (8)
屋敷の中から漏れ聞こえてくる宴席の賑わいに耳を傾けて、二人は空を見上げた。静寂に包まれた中庭の木々の葉が、風に揺られて心地よい音を奏でている。
「ありがとう……リキを守ってくれたこと、本当に感謝してる。ここを離れてからずっと不安だったんだ……リキに何かあったらといつも考えてた。リキのことを考えなかった事はない。無事でいてくれて本当によかった」
ハクランの穏やかな言葉に応えるように、リョショウは小さく息を吐いた。ぐったりと壁に体を預けたまま苦しそうに息を切らせるリョショウを振り返り、ハクランが鼻で笑う。リョショウは顔を引き攣らせながらも口角を上げてみせた。
「ただひとつ、残念なことは……リキがお前を匿っていることを俺にも隠していたことだ、どうして話してくれなかったんだろう、俺に信用がなかったのかもしれないが……だから、お前を見たら無性に腹が立ったんだ、我慢できなくなった」
「満足か……?」
か細い声でリョショウが返すと、ハクランは苦笑を漏らした。
「ああ、満足だ。すまなかった、ちょっとやり過ぎたか?」
「結構効いた……かなり、ヤバかったぞ」
リョショウは腹を押さえて、口を尖らせる。
いつしか顔を見合わせた二人の表情はにこやかで、抱いていた蟠りもすっかり消えたように見える。まるで昔から気心の知れた仲間であるかのように。
「俺はあれでも手加減したつもりだ、シュセイ殿に聞いたが、怪我は完治したのか? まだ腕力は戻ってないんだろう? あまりにも手応えが無さ過ぎてびっくりしたぐらいだ」
「治ってる、お前が強くなったんだろ……ずいぶん逞しくなってるじゃないか」
「当たり前だ、燕にいる間に死ぬ気で鍛えたんだ。絶対にお前には負けない自信がある、いや、お前じゃ物足りないな」
自信に満ち溢れた表情で笑うハクランを見上げ、リョショウはゆっくりと上体を起こした。負けたことに対する悔しさはあるが、清々しさと頼もしさを感じられる。
「頼もしい……次は負かしてやるから、覚悟してろ」
「ああ、楽しみにしてるよ」
ハクランは余裕の表情で、声をあげて笑う。その横顔を見ながら、リョショウはリキのことを考えていた。逞しくなったハクランを見たら、リキはどう思うのだろうと。