第十五章 北都奪還 (5)
「シュセイ殿から聞きました。リキがあなたを匿っていたこと、西都で待っていること……リキは、辛い思いをしていませんでしたか? リキに尋ねても、辛かったとは決して言わないでしょうから」
優しい目をしてハクランは言った。
まるでリキが目の前にいるかのような彼の表情から、彼女を想う気持ちがはっきりと伝わってくる。
東都でリキを危険な目に遭わせたことを話せば、何と言うだろう。
リョショウは戸惑ったが、ハクランの言葉に納得出来ないでいた。リキが辛い思いをするとわかっていながら、何故残して行ったのかと疑問と憤りを感じてならない。
「彼女が辛かったのは当然でしょう、残したときに予想はできなかったのですか?」
語気が無意識に強くなる。ハクランは目を伏せて、溜め息を吐いた。
「もちろん、それはわかっていました。でも、あの時は仕方なかった。リキに会ったら、まず謝ります」
「彼女はあなたを信じていました。いつもあなたの行方を気にしていましたから」
口をついて出た言葉に、リョショウは迷いを感じた。
確かにリキはハクランの帰りを待っていた。それは決して偽りではないが、今のリキの心は何を見ているのだろう。罪悪感に似た気持ちが、リョショウを追いつめる。ハクランに自分自身の気持ちを打ち明けるべきかと、何度問い掛けても答えは出ない。
「あの時、私はリキを連れていくことができなかった。カンエイに追われ、危険な状況になるのはわかっていたから、リキを残して逃げることを決めたのです」
ハクランは北都を去った日のことを思い出しているのだろうが、彼の選択が正しかったとはリョショウには思えなかった。
「泣く泣く手放した……というのですか」
「ええ、それでもリキには辛い思いをさせてしまった」
ハクランの答えに、リョショウは唇を噛んだ。
どうして逃げる時に気がつかなかったのか、残されたリキがどんな思いで待っていたのか、予想出来なかったのか。
「どうして、彼女を連れていかなかった? 大切に思うのなら、どうして一緒に連れて行かなかったんだ、リキがどんな思いでいたか、お前にわかるか? それでも大切に思っているといえるのか?」
ついにリョショウは声を荒げた。怒りを堪えた目で見据えると、ハクランは驚いて顔を強張らせた。