第二章 迫る不安の影 (9)
出征を明日に控えて、軍備を整えた都督府には北都と東都の軍が集結していた。皆の表情は固く強張っているが、それを隠すように努めて平静を装っている。
リキは都督府へは行かずに、ソシュクの屋敷で準備を手伝っていた。日中は都督府へ出向いていたソシュクとハクランは、夕方には屋敷に戻ってきた。
すっかり夜も更けた頃、ソシュクらは身辺の準備を終えようとしていた。
「リキ、そろそろ帰った方がいいんじゃないか」
ソシュクが心配して声を掛けると、リキは口を尖らせた。
「あと少しなんだから最後まで手伝うわ、これも運んでいい?」
「悪いな、それは私が運ぶから向こう側のを頼む」
大きな木箱に手を掛けようとしたリキを制止して、ソシュクは部屋の隅に置かれた木箱を顎で指した。そして自らも一回り大きな木箱を軽々と抱え上げた。これらの箱の中には、戦に使用する武器類が詰め込まれている。
「大丈夫よ、これぐらいなら私でも持ってるから任せて」
大きな木箱を持ち上げて、リキは余裕の笑顔を見せた。しかしソシュクの言った通り木箱は重く、僅かに足元がふらついている。
「な、見た目より結構重いだろ? 気をつけろよ」
と、ソシュクは笑いながら軽い足取りで部屋を出ていく。リキは負けてはいられないと足を踏ん張り、後を追った。
屋敷の前に停められた馬車の荷台に、ソシュクは木箱を軽々と荷台へと積み上げた。荷台の上ではハクランが、木箱を丁寧に並べている。
そこに大きな木箱を抱えて、リキがやってきた。その姿を見つけたハクランは、笑みを浮かべて荷台から飛び降りた。
「リキ、頑張ってるなぁ」
「当然よ、みんな頑張ってるんだから私もじっとしていられないでしょ」
リキが木箱を積み込もうと踏ん張った傍から、ハクランがそれを取り上げて軽々と荷台へと積み込んだ。手際のよさと頼もしさをリキは感じつつ、微笑んだ。
ソシュクは二人の様子を見て微笑むと、
「よしっ、もう一息だぞ」
と腕を大きく回しながら、足早に屋敷の中へと入っていく。その後ろ姿にハクランは目を細めた。
「父さん、元気だなぁ……あとどれくらいあった?」
「もう二、三回往復したら終わりそうよ、私も頑張ろ」
ソシュクの後を追いかけようとして、リキは足を止めた。ハクランが何か言いたげに唇を震わせる。