第十五章 北都奪還 (2)
西都の西に延びる山の尾根に沿って、燕との国境に接する北都の莱山へと抜けることが出来る。シュセイとリョショウらは、このルートを使って莱山へと向かった。
莱山へ着いた頃、既に日は落ちていた。
鬱蒼とした木々の向こうに、ぼんやりとした灯りがいくつも点っている。
「あそこに彼らがいるようですね、いきましょう」
指差したシュセイはリョショウらを促し、灯りのある方へと進んでいく。武装した軍勢が、シュセイらに気付いて一斉に振り返る。
「あ……」
「リョショウ、よく無事でいてくれたな」
顎鬚を蓄えた男性が両手を広げて、リョショウを抱き締めた。リョショウよりも一回り体格のいい男性は、顔を上げて笑みを零した。
「父さんも無事でよかった」
リョショウが見上げると、東都都督は目を細めて何度も頷いた。
二人の様子を見ていたシュセイは、燕の軍勢の一人へと歩み寄る。軍勢の中でも身に付けた甲冑の装飾が一際多い男は、この軍勢を統率するシュセイの古い友人だ。歳はシュセイと変わらないぐらいに見える。
「ユウガ殿、ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「シュセイ殿、お任せください。必ず成功させてみせましょう」
ユウガと呼ばれた男は自信に満ちた笑みを返した。
一群が出発に向けて準備を始める中、リョショウは視線を感じて振り返った。リョショウへと向かって歩み寄ってくる歳の変わらない男、背丈はリョショウよりも少し高く、体格は僅かに大きいように思える。男は足を止め、軽く頭を下げた。
「ご無事で何よりです」
「ハクラン殿、お互い無事でよかった。よろしくお願いいたします」
丁重に返したリョショウだったが、複雑な思いだった。この男がリキの幼馴染であり、かつてリキが思いを寄せていた男だと思うと苛立ちに似た気持ちが沸き上がる。
「リョショウ殿のことは東都殿からお聞きしていました。どうぞよろしく。今まで西都にいらっしゃったんですか?」
ふいに投げ掛けられた問いに、リョショウは驚いた。ハクランはにこやかな表情で答えを待っている。特に悪意はないようだが、まるで自分が北都で匿われていたことを知っているかのように思えてならない。何と返せばいいのか迷っていると、
「さあ、出発ですよ」
と、シュセイが二人に呼び掛けた。