第十五章 北都奪還 (1)
北都の都督府の広間に、十数人の男たちが跪いている。彼らの前方の椅子に深く腰を下ろした男は、その様子を見つめて目を細めた。
「我らはカンエイ殿に忠誠を誓います……」
跪いた男たちが声を揃える。床に触れるほど頭を垂れた彼らをじっと見ていたカンエイは、舌打ちをして立ち上がった。
「まったく、つまらん! 陛下は北都を捨てるつもりか?」
カンエイは吐き捨てて、椅子を蹴りつけた。
造反が成功した際には東都都督に任命すると約束されていたというのに、東都からは何の連絡も無い。万が一のために北都を乗っ取って盾にしたが、東都からカンエイに宛てた連絡もなく月日だけが過ぎていた。
「くそ……俺を馬鹿にしてるのか……」
何度も椅子を蹴りつけるカンエイの姿にも動じることなく、カクヒやソシュクらは頭を下げたまま時が過ぎるのを待った。
それは毎朝、北都都督府で見られる光景だったから、誰も特に何にも感じることもなかった。北都を乗っ取られて以来、毎朝繰り返されるカンエイへの忠誠を誓いはもちろん心からのものでも何でもない。ただ何事もなく時間さえ過ぎてくれればいいと思い、皆は屈辱に耐えるだけだった。
しかし最近、カンエイが不満をぶつけることがさらに増えていた。リキがリョショウとともに北都を出て行った頃からだ。リョショウを匿っていたこと、シュウイが二人を逃げる手助けをしたこと、自分に逆らうリキに対する憤りと東都から自分に対する報酬が何もないことに対する不満が蓄積されていた。
「カクヒ殿、残念だがお前の娘も東都の息子も、ここに帰ってくることはない。東都には俺の息のかかった者ばかりだからな、助けを願い出ても到底無駄なことだ」
カンエイは狂気に満ちた目で、カクヒを見下ろした。
リキが出て行った後、カンエイは北伐のすべてをカクヒに暴露した。カンエイが丞相と謀り、疎ましい存在だった東都都督を倒すための策であったと。さらに自分が東都都督に任命されるまで、北都を人質とすると宣言した。
「お前の娘の最後を見届けてやりたかったよ、出来るなら俺が手を下したかったぐらいだ」
吐き捨てたカンエイは再び椅子を蹴り上げて、広間を出て行った。
頭を垂れたまま肩を震わせるカクヒを見ていたソシュクは、小さく息を吐いた。