第十四章 重なり合う心 (6)
「話しって何? 今さら遠慮しないで、何でも話してよ」
言い出せずに唇を噛むリョショウの顔を覗き込み、リキは微笑んだ。これからリョショウが話すであろう不安を予期し、少しでも紛らわせようとしているようにも見える。
「違う、俺は諦めてたんじゃない。もう戻ってこなければいいと思ってた。お前が信じて待っていることを分かっていながら、俺は帰ってくるなと思っていた」
苦しげに発せられた言葉が、リキの胸を通り過ぎていく。
「リョショウ、謝らないで。私も北都を出た目的を忘れかけてた……自分が何をするべきかわからなくなってたんだから」
リキは声を詰まらせた。
これ以上は口に出してはいけないと、頭の中で警笛が鳴り響いている。溢れる気持ちを封じ込めようと、テーブルに置いた両手を固く握り合わせた。その手を、リョショウの手がふわりと包み込む。じんと染み込む温かさと力強さが、懸命に封じようとしていた気持ちを解き放つ。
一気に涙が溢れ出した。
「ごめんなさい……ごめんなさい、私……」
「リキ、謝らなければならないのは俺だ。自分勝手な考えだが、もう……我慢できなかった」
リョショウは手を握ったまま立ち上がり、俯くリキを抱き寄せた。しがみついて嗚咽を漏らすリキの頭を撫でながら、リョショウは固く目を閉じる。
同時に、互いの気持ちがひとつになるのを感じた。
二人の胸の奥から止めどなく溢れ出す『ここにいたい』と願う気持ちは、抑えられなくなっていく。
「俺だったら、お前を置いて逃げたりしない」
リョショウは噛みしめるように言った。抱いた腕の力強さが、リキの胸を締め付ける。
「俺なら……何があろうとも、どこまででもお前を連れていく、絶対に手放したりしない。お前は、絶対に俺が守ってみせるから」
「リョショウ……お願い、私を連れていって」
今だけでいい、こうしている間だけでいいから、すべてを忘れることを許してほしい。互いの温もりが閉じ込めていた気持ちを溶かしていく。重なり合う鼓動が、確かにひとつになるのを二人は感じた。
初めて出会った時から、これまでの軌跡と思いが蘇る。これから先の不安よりも、ようやく繋がることのできた喜びが二人に自信を与えてくれるように感じられた。