表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/204

第十四章 重なり合う心 (6)

「話しって何? 今さら遠慮しないで、何でも話してよ」


 言い出せずに唇を噛むリョショウの顔を覗き込み、リキは微笑んだ。これからリョショウが話すであろう不安を予期し、少しでも紛らわせようとしているようにも見える。


「違う、俺は諦めてたんじゃない。もう戻ってこなければいいと思ってた。お前が信じて待っていることを分かっていながら、俺は帰ってくるなと思っていた」


 苦しげに発せられた言葉が、リキの胸を通り過ぎていく。


 「リョショウ、謝らないで。私も北都を出た目的を忘れかけてた……自分が何をするべきかわからなくなってたんだから」


 リキは声を詰まらせた。

 これ以上は口に出してはいけないと、頭の中で警笛が鳴り響いている。溢れる気持ちを封じ込めようと、テーブルに置いた両手を固く握り合わせた。その手を、リョショウの手がふわりと包み込む。じんと染み込む温かさと力強さが、懸命に封じようとしていた気持ちを解き放つ。

 一気に涙が溢れ出した。


「ごめんなさい……ごめんなさい、私……」

「リキ、謝らなければならないのは俺だ。自分勝手な考えだが、もう……我慢できなかった」


 リョショウは手を握ったまま立ち上がり、俯くリキを抱き寄せた。しがみついて嗚咽を漏らすリキの頭を撫でながら、リョショウは固く目を閉じる。


 同時に、互いの気持ちがひとつになるのを感じた。

 二人の胸の奥から止めどなく溢れ出す『ここにいたい』と願う気持ちは、抑えられなくなっていく。


「俺だったら、お前を置いて逃げたりしない」


 リョショウは噛みしめるように言った。抱いた腕の力強さが、リキの胸を締め付ける。


「俺なら……何があろうとも、どこまででもお前を連れていく、絶対に手放したりしない。お前は、絶対に俺が守ってみせるから」

「リョショウ……お願い、私を連れていって」


 今だけでいい、こうしている間だけでいいから、すべてを忘れることを許してほしい。互いの温もりが閉じ込めていた気持ちを溶かしていく。重なり合う鼓動が、確かにひとつになるのを二人は感じた。


 初めて出会った時から、これまでの軌跡と思いが蘇る。これから先の不安よりも、ようやく繋がることのできた喜びが二人に自信を与えてくれるように感じられた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ