第十四章 重なり合う心 (5)
まずは燕に匿われているリョショウの父とハクランらと連絡を取り合い、カンエイから北都を取り戻す策を練ることにしようとシュセイは二人に告げた。さらに、ハクランらとリョショウの父親の無事がわかって本当によかったと。
ハクランの無事はリキにとっても喜ぶべきことだった。それにも関わらず、リキの胸の奥から込み上げてくるものは確かな不安でしかない。それは王が関わってたことがわかったことからではないことは、リキ自身も気付いていた。だからこそ、余計に迷いが生じていたのだ。
シュセイとの食事を終え、リキとリョショウは言葉を交わすことなくサイシの屋敷に戻り、それぞれの部屋へと入った。就寝の支度を済ませたリキは窓辺に立ち、星空を眺めていた。誰もが眠りに就いたであろう深い夜更けの空に月は無く、無数の星が零れ落ちそうなほど瞬いている。
これから自分はどうすればいいのだろう。
北伐が起こってから何度も自分に問いかけてきた。常に強くありたいと思い続けていた心は、既に挫けそうになっている。幼いころには何にも考えず、ただ自分自身だけが強くなることだけを考えていられたのに今は違う。自分を取り巻く人たちのことを考えると、強くなる意味が異なってくると気付いた。
ふいに扉の向こうで、廊下の床が軋んだ気がして振り返る。息を殺して耳を澄ませたリキは、そこに確かに誰かがいるような気がして扉の方へと向かった。
恐る恐る扉を開くと、薄暗い廊下にぼんやりと佇む影。
「少し、話がしたいんだ」
押し殺した低い声に、リキは安堵を覚えて頷いた。
リキとリョショウは、テーブルを挟んで向かい合って座った。互いに目を合わせることも出来ず、話がしたいと言ったリョショウさえなかなか口を開かない。リキは窓の外へと目を向けて、リョショウの言葉を待っていた。
「すまない」
リョショウがテーブルに肘をつき、呟くように言った。深夜に部屋に来たことを謝っているのか、なぜ謝るのか分からずにリキは首を傾げた。
「どうしたの?」
「さっきシュセイ殿に聞いたこと、俺は……彼らはもう、死んだとばかり思っていたんだ」
リョショウは申し訳なさげに目を伏せる。リキは首を振って、
「そんなことなら私も同じ、もう諦めかけてたから」
と答えた。リョショウは大きく息を吐いて、顔を上げる。