第十四章 重なり合う心 (4)
リキは何と言えばいいのか分からなかった。ハクランや北都の仲間、リョショウの父が見つかったことは心から喜ぶべきことだったが、さっき江の河原でのことを思うと言葉が出ない。
「リキ殿、さぞ驚かれたことでしょう。さあ、まずは食事にしましょう」
「はい、あの……どうやって燕にいるとわかったんですか?」
杯を手にしたシュセイに、リキが問い掛ける。シュセイは杯を揺らしながら、穏やかに微笑んだ。
「私の部下を燕に派遣しました。実は燕に古い友人がいるんですよ、カンエイの造反についてもすべて教えてくれました。最大の後ろ盾が誰かということまでね」
「後ろ盾? すべては丞相の策だったのではないのですか? まだ協力している者がいると?」
リョショウが、はっとして顔を上げた。それでもシュセイは穏やかな表情を崩さず、リキを見つめている。
「シュセイ殿、後ろ盾とは誰のことです?」
「東都軍の強化によって力をつける東都殿を、丞相と同じように疎ましく思っていた方がいらっしゃったのです。その方は揺るぎないはずのご自身の地位さえ危うくなるのではないかと、丞相の策に協力した。ご自身は何も見なかったことにして、東都殿や邪魔になる者すべてを排除することを丞相に命じたのです」
ゆっくりとした低い声で、シュセイは告げた。リキとリョショウは顔を強張らせて、声を発することもできない。東都において、丞相に命じることのできる人物など一人しかいない。東都で最も力を持っている人物は、蔡国で最も力を持つ人物であることに違いない。
「カンエイ殿やモウギ殿は、次の東都都督の地位を与えられることを約束されていたのでしょう。都督の地位を与えることは丞相には約束できない。ならば、蔡国の王であるあの方しかいらっしゃらない」
シュセイは悲しげに目を細めた。カンエイから北都を取り戻し、丞相の企みを暴くだけでは止まらない状況が明らかになったことで進むべき道に迷いが生じているのだろう。
それはリキとリョショウにとっても同じだった。ハクランとリョショウの父が見つかったことは喜ばしい知らせだったが、倒すべき照準を誰に合わせるべきなのかと困惑せずにはいられなかった。