第十四章 重なり合う心 (1)
既に西都に来てから、二ヶ月が過ぎていた。
シュセイは独自に情報を収集していたが、未だにハクランの行方は分からないままだった。
西都は聞いていたとおり穏やかな街だ、とリキは感じるようになっていた。街を行き交う人々の足取りも東都の人々とは違って緩やかで、北都とも違った落ちつきが感じられる。人々の表情までにこやかで、優しく思える。シュセイの言うように、『ここには武力は必要ない』と。
西の山並みが朱に染まる頃、西都を流れる江の河原に空を切る鈍い音が響いていた。燃える空の色を映した水面が、剣を交える二人の姿を照らし出す。素早く滑らかな太刀筋を操る二人の表情は真剣だが、時折信頼し合う視線が交わる。
「さすがに動きがよくなってきたわね」
「なに? 俺を誰だと思ってるんだ?」
リキが剣を下ろして微笑むと、対するリョショウは剣を上段に構えて得意げな表情を見せた。
二人は河原に腰を降ろした。緩やかに流れる水面を見つめながら、リキが両手を挙げて大きく伸び上がる。
「もう怪我は全然問題はなさそうね」
「ああ、完璧だ。お前のおかげだよ」
既にリョショウの傷は癒え、毎日ここでリキと二人で剣の稽古をするのが日課となっていた。夜になるとリョショウはシュセイの屋敷へ行き、現状とこれからのことや他愛無い話をしているが、日中は二人で時間をもてあましているような状況だった。先の見えないもどかしさを掻き消すように、二人は剣を交えていた。
「そうだ、今朝ね、姉さまに髪を整えてもらったの。気付かなかったでしょう?」
リキが後ろで一つに束ねていた髪を解いた。肩に触れそうで触れないぐらいの長さだが、綺麗に毛先が整えられている。ここに来てからモウギに斬られた髪を、一度サイシが整えてくれた。それから二ヶ月経ち、ようやく少し伸びた髪をまた切ってもらったというのだ。
「せっかく伸びてたのに、どうして切ったんだ?」
「短い方が頭が軽くて気持ちいいの、洗うのも梳かすのも楽でいいわよ。女は髪を伸ばさなきゃいけないなんておかしいわ」
リキは頭を振った。軽やかに跳ねる毛先を指先に絡めて、無邪気にリョショウを振り返る。
「似合ってるよ」
リョショウは微笑み、そっとリキの肩を抱いた。