第十三章 穏やかな夢 (12)
窓の隙間から入り込んでくるひんやりとした風が、リキの肩越しの髪を柔らかに揺らしていた。ベッドの上で体を起こし、庭の木々を眺めるリキは目を細めた。木々の葉の緑色は生き生きとした色を通り過ぎ、深みのある落ち着いた色に変わりつつある。
「夢を見ていたの」
ぽつりと溢して、リキは振り返った。ベッドの傍らで椅子に座り、彼女の横顔を見つめていたリョショウは少し驚いた様子で首を傾げる。
「夢? どんな夢を?」
リョショウが問い掛けると、リキはふわりと笑顔を見せて目を逸らす。膝の上で組んだ両手を固く握り合わせて、ぐっと力を込めている。何か言いたげで躊躇っているようにも見えた。
「幼かった頃の夢、兄さんと姉さんと一緒にソシュクの元で稽古していたわ。姉さんは稽古が嫌いで、よく泣いていたのよ。行きたくない、こんなことしたくないって言ってね」
くすっと笑うリキの目は遠く、リョショウの知らない思い出へと向けられている。そこにはきっとハクランも居たのだろうと知りながらも、リョショウは黙ってリキを見つめていた。眠っていたリキがハクランの名を呼んだ訳が分かった途端、胸の奥がざわめき始める、それは悔しさにも似た気持ち。
「お前と違って、サイシ殿には剣術は似合わないと思うな。そんな小さい頃のことを話したら怒られないか?」
「もちろん、姉さんには内緒よ」
リキは肩を竦め、頬に触れた髪に手を伸ばした。指先に絡んだ髪が、はらはらと手から零れ落ちていく。唇を噛んだリキの頬を伝う小さな雫を見たリョショウは、咄嗟に両手を差し伸べた。零れ落ちる雫を受け止めるように。
「すまない、許してくれ……俺が非力だったために」
「リョショウ」
リョショウは固くリキを抱き締めていた。思わぬ行動に驚いて、リキは目を見張っている。
「二度とお前を危険な目には遭わせない、俺が絶対に守ってやる」
リョショウの腕の力強さに応えるように、リキもリョショウの背中に腕を回した。ぐっと力を込めた腕に逞しさと温もりが伝わってくる。
「守るなんて言わないで、私はそんなに弱くない。それと、いい加減にお前って呼ぶのやめてくれる?」
「弱くなくても、俺に守らせろ」
「じゃあ、お願いするわ」
抱き締め合う力強さに、リキは安心感と共に込み上げる胸の痛みを感じていた。