第十三章 穏やかな夢 (9)
仄暗い灯りの灯る部屋、椅子に凭れたリョショウはリキの寝顔を頼りなく見つめていた。一見すると穏やかな眠りに就いているようだが、決してそうではない。思い起こしたくもない事実から目を逸らすように、リョショウは小さく息を吐いた。
時折押し寄せる緩やかな眠気の波が、リョショウの意識を浚っていきそうになる。しかし部屋に戻って、ベッドで眠ることは考えられなかった。
少しでも長くここに居たい。彼女が目を覚ますまでは。
カーテンの隙間から白い光が見え隠れし始める。いつの間にか部屋に点していた灯りは消え、淡い光に包まれた部屋の様子がぼんやりと浮かび上がっていく。
リョショウは両手を上げて伸び上がると、カーテンに手を掛けた。そっと開いて見上げた空には、朝日に照らされた雲が靡いている。
ゆっくりと開き始める窓の隙間から、ひんやりとした空気が部屋の中へと入り込んでくる。真新しい風が触れた先から体が洗われていく感覚。風に揺らされた髪が耳に触れた瞬間、声が聴こえた。
はっきりとした声ではないが、微かな音のような声はベッドで眠るリキが発したものだ。
リョショウはベッドに駆け寄った。
「リキ」
呼び掛けると唇が微かに震えて、息が漏れる。咄嗟にリキの手を取り、両手で固く握りしめた。目を覚まして欲しいと祈りを込めて。
「ああっ……」
突然リキが声をあげて目を見開いた。固く握ったリョショウの腕を手繰り寄せるように起き上がったリキは、目を見開いたままリョショウの肩へと手を回す。しかし、その目はリョショウを捉えてはいなかった。
「リキ、しっかりしろ、大丈夫か?」
リョショウの問い掛けに答えることなく、肩にしがみついたリキの手に力強さが増していく。胸の中に飛び込んで顔を埋めるリキの髪が、リョショウの頬にふわりと触れる。
リョショウはリキの体を両腕で包み込んだ。
「ハクラン……ハクラン、帰ってきたんだね」
腕の中でリキが言った。じんと染み込む温もりが揺らがないように、リョショウは両腕に力を込める。
「リキ、俺だ……」
「ハクラン……」
肩に回したリキの手から力が抜けて、体が凭れかかってくる。しっかりと抱きとめたリョショウは、リキの頭に唇を触れて目を閉じた。