第十三章 穏やかな夢 (8)
リョショウがサイシの屋敷に戻ったのは、ずいぶん夜が更けた頃だった。東都の街とは違って西都の街の夜回りは少なく、灯りの数も疎らで暗い。
「おかえりなさい、シュセイ殿とのお食事はいかがでした?」
戻ったリョショウをサイシが笑顔で迎えた。屋敷まで送ったシュセイの部下に丁重な挨拶を済ませたサイシが、リョショウを部屋へと案内する。
中庭を囲んだ灯りがぼんやりと廊下を照らし出している。それらをぐるりと見回しながら、ここがシュセイの設計した屋敷かとリョショウは納得しながらサイシの少し後ろをついて歩く。
「シュセイ殿とお話が弾んだようですね」
サイシが振り返った。はっとしてリョショウが僅かに頭を下げる。
「遅くなってしまいすみません。シュセイ殿は本当に見た目通りの優しい方ですね、申し訳ないぐらいもてなしていただいて、心から感謝しています」
「いいえ、謝らないでください。そんなつもりで言ったのではないのですよ。シュセイ殿はあなたのことを本当に心配していましたし、話がしたいと仰ってましたから」
廊下の灯りに照らされたサイシの柔かな笑顔が、リョショウの心を軽くする。これまでの刺々しい緊張感から、何もかもが解放されていく感覚。
「本当に、シュセイ殿は細やかな気遣いの出来る優しい方ですね。話していて穏やかな気持ちになれました」
「ええ、シュセイ殿は私がここに嫁いで何も分からない時からずっと助けてくださって……私が相談する前に気付いて声を掛けてくださるんですよ。私の西都の父のような存在です」
サイシの言葉にリョショウは納得した。シュセイはまさに父のような心の広さと芯の強さと優しさに満ちている。西都の皆が彼を慕い、頼りにしているのだろうと確信した。
「リョショウ殿、ごゆっくりお休みくださいね。明日の朝は起こしに来ませんから、お腹が空いたら声をかけてください。すぐに朝食の準備をしますね」
サイシが扉の前で立ち止まり、一礼してにこりと笑った。礼を返したリョショウが、隣りの部屋の扉へと目を向ける。
「先ほど覗いたのですが、まだ眠っているようです。隣りなので気付いたら覗いてやってくださいね」
サイシの寂しげな顔が、リキの顔と重なる。
「ありがとうございます」
リョショウは歯を食いしばり、大きく頷いた。