第十三章 穏やかな夢 (4)
テーブルに並べられた食事を、すべて食べ尽くすことは不可能と思われた。リョショウにとって、こんなにたくさんの食事を見たのは久しぶりだった。しかし半端ない量の食事を見ているだけで、腹が満たされる前にいっぱいになった気分になる。
そしてリョショウは、西都でシュセイと共に食事をしていることに驚いていた。北伐以前、東都に居た時には意見の合わない西都の者を嫌ってさえいたのに。
「リョショウ殿、遠慮せずにもっと食べてくださいよ」
リョショウの様子を微笑ましく見つめていたシュセイが促す。
するとリョショウは、驚いた顔で首を振った。
「いや、こんなにもてなしていただき本当にありがたく思ってますが、もう結構です」
「たいしたもてなしは出来ませんが、ゆっくりと休んで疲れを癒していただければ私も嬉しいです」
シュセイの優しい声が、穏やかな気持ちを思い出させる。昨日までのすべての出来事を忘れてさせてくれるように。
「ところでシュセイ殿、今朝私はかなり眠り込んでいたようで、ご迷惑をおかけしてしまい申し訳なかったです」
「いいえ、どうぞ気になさらず。お疲れだったんでしょう、起こすのが忍びなかったのでそのままお連れしたんです。こちらこそ失礼なことをしてしまいました」
どうしても気になっていたことを訊ねたが、返ってきたのはサイシと同じ答えだった。シュセイは顔色を少しも返ることもない。偽りを言っているようには思えなかった。
「そうでしたか、お恥ずかしい。本当に失礼しました。東都を出る際に何か問題はありませんでしたか」
「ええ、予定より早く出発しましたし、昨夜のうちにある程度の手は打っていたので警備もさほど厳しくならずに済みましたよ」
さらりと答えたが、その細やかな対応に驚かされた。同時に、一見穏やかそうに見えるシュセイの奥深さと気遣いに対する警戒心をも呼び起こす。
「ご安心ください、リキ殿も回復に向かっているようです。間もなく目を覚ますでしょう」
リョショウの胸に生まれた小さな不安を掻き消すシュセイの言葉。シュセイに自分の心をもすべてを見透かされているように思えて仕方ない。
「ありがとうございます」
不安を覚られぬように、リョショウは小さく礼をした。