第十三章 穏やかな夢 (3)
日が傾き始めた頃、リョショウはサイシに連れられてシュセイの屋敷へと向かった。
シュセイの屋敷は西都都督の屋敷の裏側にあり、都督に次ぐ者の屋敷とは思えないほど飾り気の無い小さく質素な屋敷だった。
「ここがシュセイ殿の屋敷ですか、ずいぶんと……宰相らしくないですね」
驚きを隠せずにリョショウが言うと、サイシはくすりと笑った。
「シュセイ殿は必要最低限の部屋しか必要ないと仰るんです。多すぎる部屋や広すぎる屋敷は掃除が大変だろうって。だからリョショウ殿のお部屋を用意出来なくて、私の屋敷に来ていただくことになったんですよ。でもね、私の屋敷を設計されたのはシュセイ殿なんですよ。おかしいでしょう」
屋敷から出迎えたシュセイの姿を見て、サイシは慌てて口を押さえた。
シュセイはにこっと笑う。
「サイシ殿、ちゃんと聞こえてましたよ。リョショウ殿、どうぞ中へお入りください。一緒に夕食をいただきましょう」
「では、私は先に帰りますね」
頭を下げて帰っていくサイシに、シュセイは手を振る。その姿は無邪気に見えて、リョショウはふっと笑った。
シュセイの屋敷は外観から想像した通り、小さな屋敷だった。玄関を入ってすぐに望むことのできる中庭は小さく、中庭を囲んだ部屋は数えるほどしかない。
それを眺めながら、玄関をはいってすぐの応接室へと案内された。何もない殺風景な部屋の真ん中にあるテーブルと椅子にも装飾は無い。不思議に思いながらも、リョショウは席に着いた。
「小さな屋敷でしょう、私は無精者なので歩き回らなければならないような広い屋敷は苦手なんですよ。恥ずかしい話ですが、どうすれば楽をすることが出来るのか、そればかりを考えているものでね」
シュセイは恥ずかしそうに答えて、席に着いた。
「いいえ、実に効率的だと思いますよ。私の屋敷も見習った方がいいのかもしれません」
「そう言われると嬉しいです。さあ、食事をお持ちしましょう」
扉が開き、侍女が食事を運んでくる。次々とテーブルを埋め尽くす食事に呆気を取られるリョショウの前に杯が置かれ、侍女が瓶を添えて促す。リョショウは、ためらいつつも杯を手にした。
「リョショウ殿、今日は茶にしましょう。美味しい茶が手に入ったんですよ」
杯を翳して、シュセイは穏やかに微笑んだ。