第十三章 穏やかな夢 (2)
「今朝、東都を出発するのが予定より早かったのです。リョショウ殿はお疲れのようだったので……よく眠ってらしたので起こすのが申し訳なくて眠ったままお連れしたんです。失礼なことをしてしまいました」
サイシはためらいながらも打ち明けて、深く頭を下げる。その言葉と彼女の表情に偽りは感じられないが、リョショウは納得出来なかった。自分が眠ったまま目を覚まさなかったこと、気付かなかったということに首を傾げる。
「そうですか、ここ来るまで全く気付かなかったとは……恥ずかしい」
「きっと、ご自身が感じていた以上に疲れていたのでしょう。無理をして思い出すことはないと思います。ここに無事に来ることが出来たのですから」
サイシは柔らかに微笑んだ。すべてを包み込むような優しさに満ちた笑みは、昨日のことをもすべて忘れさせてくれそうに見えて、胸の中で疼いている痛みが消えていく気がする。
しかしリョショウは、サイシの姿にリキの姿を重ねずにはいられなかった。
「彼女はどこですか? 具合はいかがですか」
サイシの表情から笑みがふと消える。リョショウは、リキがまだ目覚めていないことを察した。
「隣の部屋です。案内しましょう」
案内された部屋は、リョショウの居た部屋と全く同じ造りだった。
ベッドの上には眠るリキの姿。リョショウは駆け寄りたい気持ちを抑えて、サイシの後に続いて椅子に腰を降ろした。
「先ほど、シュセイ殿が医師を連れてきて看ていただいたんです。眠りが深いだけで大丈夫だと医師も仰ってましたから、目が覚めるまで見守っていようと思うんです。それに昨日よりも顔色が良くなっている」
平静を装うような穏やかな口調だが、リキを見つめるサイシの表情は痛々しい。
しかしサイシの言うようにリキの肌色は透き通り、赤みの戻った唇からは静かな息遣いからは回復が感じられる。安心したリョショウの表情が和らいでいく。
「あなたも、今日はとてもいい顔色をしている」
サイシがリョショウを見つめて言った。何と返していいのか分からず、リョショウは照れ臭そうに小さく頷いた。