第十三章 穏やかな夢 (1)
どこからともなく通り抜けていく涼やかな風が、静かに優しく頬を撫でている。決して眠りを妨げぬようにと気遣うように。天井を横切る太い梁の間を風が通り抜けていくたびに、柔かな木の香りが部屋に降り注いでくる。
目を開けたリョショウの目に映るのは、見たことのない景色、見たことのない部屋の天井だった。
カーテン越しに煌々と降り注ぐ日差しに朝の真新しさはない。
ゆっくりと起き上り、見渡した部屋は東都の宿舎の部屋とは全く様子が違っている。
部屋にはベッドと小さなテーブル、壁際の腰ほどの高さの箪笥の上には花が生けられた小さな花瓶。生けられた花が、窓からカーテン越しに降り注ぐ光を浴びている。
揺れるカーテンを見つめながら、おぼろげな記憶を手繰り寄せる。
そっと右肩へと手を触れた瞬間、昨夜の出来事が勢いよく脳裏に蘇った。最後の記憶に映るのは、穏やかなシュセイの顔。それ以上は思い出すことが出来ない。
ただひとつ分からないことは、いつの間にどうやってここに来たのかということ。
リョショウは勢いよく立ちあがった。ベッドの傍らから何かが滑り、大きな音を立てて床に落ちる。それは自らの剣。拾い上げて窓の方へと駆け寄り、思い切りカーテンを開けた。
やはり、そこは見たことのない景色。日は思ったよりも低く、西の山際へと向かっている。
やがて部屋の扉を叩く音に、リョショウは現実に引き戻された。開いた扉の向こうに現れた女性を見て、手にした剣を固く握った手が緩む。
「リキ……」
女性は柔かな笑みを浮かべて、首を傾げた。
申し訳なさそうに一礼する女性は、リキではなく姉のサイシだった。リョショウは恥ずかしそうに礼を返した。
「お目覚めかと思って着替えをお持ちしました。主人の服ですけど、その箪笥にもいくらか入れてあるので自由に使ってくださいね」
と言って、サイシは抱えていた服をベッドの上に置いた。
「サイシ殿、ありがとうございます」
リョショウは再び礼をした。彼女の姿にリキの面影を重ねる自分を覚られぬように。
「いいえ、気になさらず何でも言ってください。傷は痛みませんか? 後で薬をお持ちしますね」
「私は、どうやってここに来たのですか。恥ずかしながら道中のことを覚えていないのです」
と訊ねると、サイシは僅かに顔を曇らせた。