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第十二章 代償 (10)

 鈍い音とともに、モウギとリョショウは床に崩れ落ちた。一瞬にして沈黙に包まれた部屋に、荒い息遣いだけが聞こえる。

 息絶えたモウギを押し退けて、リョショウが大きく息を吐く。やがてよろめきながらテーブルに寄りかかり、手を小刻みに震わせて剣を置いた。がくりと頭を垂れたリョショウは、懐に入れた髪飾りに手を伸ばす。


 込み上げてくるのは後悔しかない。なぜあの時リキの傍を離れてしまったのかと、何度も自問を繰り返す。あれほど憎んだモウギが消えても、消えることない悔しさが胸の中で渦巻いている。


 リョショウはベッドの傍に崩れ落ちれように跪き、そっと手を伸ばした。祈るような気持ちで、髪を撫でつける。


「リキ、すまない……すまない」


 リョショウは顔を伏せた。自分の無力さを痛感し、唇を噛み締めるが思わず嗚咽が漏れる。

 モウギの言ったように、自分は何の力も持たないのかもしれない。都督である父を盾にして、驕っていただけなのかもしれない。自責の念が胸を締め付ける。


 慰めるように髪を揺らす風が、すぐ傍に潜む気配を告げる。耳を澄ませたリョショウは確信した。


「どうぞ、お入りください」


 何事もなかったかのような穏やかな声。一息おいて、扉の陰からシュセイが姿を現した。


「この部屋の後始末は 私にお任せください。リョショウ殿はリキ殿を連れて宿舎にお戻りください。いつ守衛が戻るか分かりません、お急ぎください」


 シュセイは部屋の様子にも動じることなく、ゆったりと一礼した。急かす内容でありながら落ち着いた声で。


「先ほどの侍女を玄関で待たせています、彼女も放ってはおけません」

「ご安心ください、彼女は保護しました。彼女の家族も一緒に、西都へ連れて行くつもりです」


 思いも寄らなかった機転の利いた行動に、リョショウは安堵の表情を見せた。

 リョショウとリキが命拾いしたのは、彼女のおかげでもある。モウギがいなくなったとは言え、他に丞相や誰が関わっているか分からない。報復を避けるには、東都を離れるのが一番だろう。


「ありがとうございます。申し訳ありませんが、リキ殿を運ぶのを手伝ってもらえませんか?」


 リョショウは悲しげに目を伏せた。





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