第十二章 代償 (8)
「卑怯な……」
「造反はどんな形であれ、卑怯なものでしょう? ただ、カンエイが北都を占拠したのは想定外でした。もちろん、あなたが戻ってきたのも」
リョショウは怒りに唇を震わせる。
それを横目で見ながらモウギはゆったりとした足取りで、部屋の真ん中のテーブルへと進んだ。剣をテーブルの上に置くと、どかっと椅子に腰を下ろしてリョショウを見つめる。
「カンエイが東都都督の座に就くなど納得出来るわけないでしょう? 私の方がふさわしい。だからこそ丞相はカンエイより私を選んだのですよ」
カンエイは東都に戻れば丞相らに命を狙われるとの情報を得て、北都に留まった。今度は本当に燕の後ろ盾があると偽って。実際に丞相は東都に戻ったカンエイの口封じを画策していた。しかし北都と連絡が途絶えたため、カンエイが燕と手を組んだ真偽を確かめる術がなく、手を出せなくなってしまった。
「なぜ北都を巻き込んだ、関係ない者を巻き込む必要などなかったはずだ」
「東都の都督ですよ? 暗殺されるより蔡のために華々しく散った方がいいと思いませんか? それに、あなた方にも消えもらう必要もありましたからね」
さらりと答えて、モウギは懐に手を入れた。得意げに笑い、取り出した物をに見せつけるように掲げる。リョショウは目を細めたが、はっきりと認めることは出来ない。
「私はついてる、北都を巻き込んだおかげでいい物を見つけましたよ」
不意にモウギが手にした物を放り投げた。弧を描いてベッドへと落ちる物に、リョショウが手を差し伸べる。
モウギがくすりと笑った。
立ち上がると同時に、テーブルの上に置いた剣を抜いて駆け出す。落ちてくる物を手のひらに受け止めたリョショウに、モウギが踊り掛かる。体格に似合わない素早い動き。物を確かめる間もなくリョショウの握り直した剣に、予期せぬ衝撃が襲った。
危うく剣を弾かれそうになったリョショウは切り返すことも出来ず、咄嗟に飛び退く。
「リョショウ殿、動きが鈍いのは怪我のせいですか? それともこの女のせいかな?」
笑みを浮かべたモウギの視線の先にはリキ。
「触るな、彼女は関係ない」
「関係ない? では私が、遠慮なく頂きましょう」
モウギはリョショウに剣を向けたままベッドに腰を下ろし、リキの唇を指で触れた。