第十二章 代償 (7)
庭に現れた影が縁側から部屋へと入ってくる。朧げな部屋の灯りが露わにしたのは予想したとおり、不敵な笑みを浮かべるモウギの姿だった。
「リョショウ殿、突然姿を消されては困ります。心配しましたよ」
歩み寄るモウギから隠すように、リョショウはベッドの前に立ちはだかった。
「すべてお前の企みか、陛下との謁見を段取りしたのもすべて嘘だったのか、隠さず答えろ」
「よく気づきましたね、誰かに入れ知恵でもされましたか? まさか本気で会えると思っていたとは驚いた」
リョショウは高笑いするモウギに剣を向けた。しかしモウギは動じる様子もなく、哀れむような眼差しをリョショウに向けて笑みを浮かべる。
「何が狙いだ、北伐もお前が仕組んだのか」
「リョショウ、あなたは帰ってくるべきではなかった」
ぎりりと歯を食いしばるリョショウを鼻で笑い、モウギは語り始めた。
東都軍の強化を図ることで力を増す東都都督を丞相は疎ましく思っていた。王に近づく都督を警戒した丞相は、都督の排除を謀ろうと模索する。それを知ったカンエイは策があると丞相に持ちかけた。
カンエイは燕を利用することを提案した。表向きには燕が攻め込んでくるという設定で北都を巻き込み、東都都督を討つ計画。実際には燕など関わってなどいないのに、東都都督が出て行かざるをえない状況を作った。都督は燕に討たれたことにすれば、不自然ではない。
「そう、すべては虚構。燕への使者もカンエイの配下が阻止していたから返事などあるわけない、すべては金ですよ」
燕へ使者として出向いた者は、カンエイに金で買われていたという。実際には燕へ行かず、追い払われたと言って戻ってきていたのだ。そのための金は丞相が用意したという。買収された彼らはその後、口止めのためにモウギの配下になったというが真偽は定かではない。
「では、国境に対峙した燕の軍は何だ」
「私の配下ですよ、うまく燕の兵に扮していたでしょう? 数を多く見せるのには苦労しましたよ。自らの配下を東都に残してしまった都督の不運でしたね」
モウギのあざ笑うような口調が、リョショウの怒りを呼び覚ます。彼らに騙されていた悔しさと、それを見破れなかった自分自身の情けなさが胸で渦巻き、怒りへと変わっていく。