第二章 迫る不安の影 (6)
「でもな、男だから酒に強いのが当たり前っていうのはおかしいよな? 女でも男に負けないぐらい強いやつだっているんだし、男や女で決めつけるのはおかしいと思うんだよな、俺は」
と、リョショウは語気を強める。まるで照れ隠しのようにも思える彼の様子がおかしくて、リキは声を出して笑った。
男だから、女だからという考え方に捉われないリョショウの言葉が嬉しい。
リキが兄シュウイから度々言われている『女だから大人しく』という考え方さえも、リョショウは否定しているように感じられて。
リョショウの言葉を噛み締めるように、リキは大きく頷いた。
「お酒なんて飲めなくてもいいと思います。だって宴席でみんな酷い状態だったもの……お酒に呑まれて、その場にいない人の悪口を言い始めるし」
と言って、リキは口を尖らせた。宴席で目の当たりにした皆の様子を思い出す。
同じくその様子を思ったのか、リョショウは小さく頷いた。
「西都のことか?」
「そうです、皆が西都の宰相殿のことを言うんです。見ていられなくて私も席を外しました」
「シュセイ殿のことは仕方ない。父さんだけじゃなく東都とは相反する意見を持っているからなぁ」
と、リョショウは溜め息を吐いた。
東都と西都の考え方の違いは都市同士の対立とまでは発展していないものの、両都市に住む人々の間に蟠りを感じさせていた。東都に住む西都出身者、逆に西都に住む東都出身者は何かしら溶け込めない気持ちを抱かざるを得ない状態ではあるのだ。
「それに私の姉が西都に嫁いでいるので、西都のことを悪く言われると気分のいいものではないんです」
「そうか、お姉さんが西都に……だったら当然いい気はしないよな」
「はい、でも父は西都よりも東都に肩入れしているから……あ、失礼な言い方してしまってごめんなさい。東都を否定している訳じゃないんです」
隣りにいるのが東都都督の息子だと思い出し、リキは慌てて謝る。いつの間にかハクランのように気心知れた相手だと思ってしまっていたようだ。
「いや、大丈夫。俺は気にしてないから、やはり強い者に身を委ねて流されてしまうのは仕方ないだろう。北都殿も大変だな」
微笑みかけたリョショウの顔が僅かに強張った。柔かだった目元は険しさを取り戻し、リョショウは固く結んだ唇を噛んだ。