第十二章 代償 (5)
西都の宿舎の門を潜った侍女は、裏口へと向かった。裏口を入るとすぐに西都の宿舎に勤める侍女ら数人が、何事かと言わんばかりの顔をする。
侍女は息を切らせながら、胸に抱いた短剣を見せた。
「リョショウ様はどこ? これを……リョショウ様に、渡さなければ」
短剣を見せられた侍女らは、訳が分からない様子で暫く顔を見合わせていた。一人が短剣をまじまじと見つめて吹き出すと、他の侍女もつられて吹き出した。
「リョショウ様? 何を言ってるの? あの方は北伐で亡くなったのよ?」
「信じて、リョショウ様は生きてる! 私は北都の宿舎でお会いしたのよ!」
「お会いした? そんな馬鹿な、幽霊でも見たんじゃない?」
「本当よ、北都の宿舎にいるリキ様からこれを預かったのよ! 早く知らせないとリキ様が危ないの! お願い、一緒に探して!」
侍女が必死に訴えるが、誰も信じようとはしない。寧ろ小馬鹿にして笑うばかりで相手になどされない。
「はあ? リキ様って北都の? 冗談はやめてよ」
「さっきの髪飾りといい、いい加減にして! 私たちは忙しいのよ」
馬鹿にされたと思い、西都の侍女は腹を立てて去っていった。
一人残された侍女は涙を滲ませながら、西都都督の部屋へ向かうことを決意した。都督の部屋へと通じる廊下を歩き始めた侍女を、庭から呼び止める声。
「さっきの話を、詳しく教えてくれないか」
振り向くと、庭の闇から一人の若い男性が現れた。使用人の格好をしているが、彼の顔には見覚えがある。
「リョショウ様……」
侍女は溢れ出す涙を拭いながら、リョショウに事情を打ち明けた。
北都の宿舎にリキが捕らわれていること、自分がモウギに逆らえずにリキを誘き出したことを息を吐く間もなくリョショウに打ち明ける。
涙ながらに訴える侍女の言葉に、彼の顔がみるみる強張っていく。
「早く案内しろ!」
血相を変えたリョショウに怒鳴りつけられた侍女は、慌てて頭を下げた。
「待ちなさい」
裏口を出るとすぐに、シュセイが細長い布の包みを抱えていた。
シュセイがその包みを手渡すと、リョショウは固く口を噤んで頷く。包みの中から取り出した剣を握り締め、リョショウは侍女と共に駆け出した。