第十一章 それぞれの孤独 (10)
夜空を見上げるリキの目に、一筋の流れ星が過った。咄嗟に目を閉じ、両手を組み合わせてリキは念じた。それは髪飾りが無事に見つかることではない。
再び目を開けたリキは、廊下の先にある中庭の扉へと振り返った。
サイシと出会った中庭で落としたのかもしれないと思い立ったのだ。急いで廊下へと上がり、扉の方へと向かう。その顔から先ほどの落胆の色は僅かに消えている。
扉を開けたリキの耳に、聞き覚えのある声が飛び込んだ。
リキは足を止めて柱の陰に身を隠し、声のする玄関の方を窺う。
そこには北都の宿舎で、リキが衣装を借りるために拘束した侍女の姿がある。西都の宿舎の侍女ら数人と何かを話しているようだ。何故ここに居るのかと思いつつ、リキは息を殺して話の内容に耳を傾けた。
「髪飾りを拾ったのだけれど、西都の方のものではないかしら」
髪飾りという言葉に、リキの胸が大きく高鳴った。
もしかすると、それは自分のものかも知れない。柱の陰から侍女らの方を覗こうとするが、中庭を挟んだ向こう側にある玄関は遠過ぎて見えるものでもない。
「どこで拾ったの? こちらの方々にお聴きしておきましょうか」
「ええ、それがね……北都の宿舎なんだけどね」
「北都の宿舎に? そんな馬鹿な、北都の宿舎には誰も宿泊されていないはず。こちらの何方かが北都の宿舎に入ったとでも?」
彼女はっきりと北都の宿舎だと言った。それを聞いた西都の侍女は、声を潜めて返す。
「西都の方が北都の宿舎に忍び込んだなんて、あり得ないでしょう? 西都の方々に聞くのは失礼かもしれないわ」
「じゃあ、この髪飾りは誰が? 前回北都の方が使われた後に掃除した時には無かったのよ?」
「街の者が忍び込んだんじゃないかしら? 泥棒とか?」
「調度品は何も盗まれていないのよ? ただ髪飾りだけを落としていくなんて間抜けな泥棒がいると思う?」
西都の侍女を言い包める彼女の口調は力強く、リキの胸を刺激する。彼女はすべてを知っているのだろうか。
「どんな髪飾りなの? 見せてもらえる?」
「いいわ、これよ」
「まぁ……これは庶民的ではないわね、さほど高価ではないだろうけど、この花は……梅? 桜?」
リキは確信した。その髪飾りは自分の物に違いないと。