第十一章 それぞれの孤独 (9)
二人が小声で話しているのは、北伐での出来事や北都の現状のことのようだ。
リキは二人の話に興味を抱きながらも、部屋の中を隅々まで探していた。話の所々で感情的になりそうなリョショウの様子が気になり、探している手を止めて振り返る。
部屋の中を一通り探し終えて、ふぅと小さく息を吐いたリキに気付いたイキョウは、
「リキ殿、見つかりましたか?」
と控えめに訊ねた。
「いいえ、ここではないようです。お話中、本当に失礼しました」
「何をお探しですか? 後で見つけたらお届けしましょう。もう遅いですからお休みください」
イキョウはリョショウに断ると、リキの元へと歩み寄る。リキを気遣う後ろ姿を、リョショウが見つめている。しかし彼が見つめているのは、イキョウの向こうで肩を落とすリキの表情でもあった。
「お心遣いありがとうございます。実は、髪飾りなのです」
恥ずかしそうに答えたリキの髪を見たイキョウは、あっと驚いた顔をした。結い上げられた髪に髪飾りはないが、侍女の格好をしていたから違和感は無かったのだ。侍女は結い上げた髪に髪飾りを付けることはほとんどないから。
「そうでしたか、大切な簪なのですね。明日の出発までに必ず見つかるよう、他の者にも声を掛けておきましょう」
顔を曇らせるリキを慰めるように、イキョウは優しい言葉を掛ける。
リキはすべて言わずとも察することの出来るイキョウに、心強ささえ感じていた。しかし同時に堪えていた不安が込み上げそうになり、リキは慌てて唇を噛み締めた。
イキョウに見送られて、リキは部屋を出た。
サイシの部屋へ戻って休む前に、もう一度自分の目で部屋の外を探しておきたいと廊下や灯りのある廊下沿いの庭へと降りて念入りに見回し始めた。
暫くしてリキは暗い庭へと目を向けた。夜も更けた庭を探すことなど不可能に近いのかもしれないと、
夜空を見上げて大きく息を吐く。しかし諦められるはずもなく、リキは晴れない気持ちのままその場で立ち尽くしていた。