第十一章 それぞれの孤独 (8)
西都の宿舎の縁側に腰を降ろして、サイシは星空を見上げていた。
その部屋の中で一人の侍女が木箱の中から衣装を出して広げては、また畳み直して木箱の中へと戻している。先ほどから彼女はその作業を何度も繰り返しているらしく、縁側からサイシは心配そうに部屋の中を覗き込んでいた。
「どうしたの? さっきから出し入ればかりしているけど、畳み方が気に入らないの? あなたはそんなに神経質だったかしら?」
部屋の中へと入ってきたサイシはくすりと笑った。
「違うわ、失礼ね」
振り返った侍女の服装をしたリキは、口を尖らせて浮かない顔をする。
リキが侍女の服装をしているのは、明日西都へ帰る一行に混じって東都を出る予定だからだ。西都から都督らと同行した侍女だと言えば、不自然ではないだろう。リョショウは侍女の格好ではあまりにも不憫だろうと、荷物持ちに扮することになった。彼は今、西都都督イキョウの部屋で話しているところだ。
「何か探しているの? よかったら一緒に探すわ」
リキの表情から察したサイシがそっと声を掛けると、
「うん、私の髪飾りが見当たらないの……」
とリキは小さく頷いた。
サイシは自分の荷物をも広げて探し始めるが、どこにも見当たらない。落胆するリキの様子に、サイシははっとした。
「ここになければイキョウ様の部屋かもしれない。さっきまでイキョウ様の部屋で話してたでしょう? お話し中かもしれないけど一度お邪魔して探させてもらいましょう、私もついて行くわ」
「ありがとう、私一人で大丈夫。行ってくるわ」
可能性を感じたリキは、すくっと立ち上がった。
「リキ殿、いかがされましたか?」
部屋へ向かったリキを、イキョウが穏やかな笑顔で迎えてくれた。大事な話をしていたであろうところを邪魔してしまったのにと、リキは申し訳ない気持ちになる。
「お話中申し訳ありません、ここで落とし物をしてしまったかもしれないので少し探してもよろしいでしょうか」
「どうぞ、遠慮なくお入りください。何をお探しですか? 私も手伝いましょう」
部屋を覗くとリョショウがテーブルに肘をつき、つまらなさげな顔でリキを見ている。
「あの、お話を続けてください。お邪魔でしょうが私一人で探しますので」
とリキが言うと、イキョウは分かったと頷いて席へと戻った。