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第十一章 それぞれの孤独 (7)

 欄干に沿って等間隔に並んだ松明の明かりが、長く延びる回廊の床を艶やかに照らし出している。欄干の向こう側には、その明かりさえ届かない深く広大な闇に包まれた中庭。

庭園の木々を眠りに誘うように、しっとりとした夜風が吹き抜けてゆく。


 目を凝らして見れば、ようやく繁る木々の丘や静かな池、優しい音を立てて流れる小川があると分かる暗い庭。池の畔の亭に向かって延びる小道の脇に立った松明の明かりが、静まり返った木々を浮かび上がらせて揺れている。


 亭の下に、松明よりも小さく灯かりがひとつ頼りなさげに揺れている。それはまるで仲間から逸れて取り残された蛍のように、留まったまま動かない。地面に置かれた小さな灯かりは傍にある腰掛け石の表面をぼんやりと照らし出し、そこに座り込む者の足元を頼りなさげに映し出す。


 彼は静かに息を吐いた。

 目に映るのは深い闇に沈んだ庭、木々の緑の匂いだけが辛うじて鼻先に感じ取れる。膝の上に横たえた琴の弦を撫でるように、愛おしげに何度も触れては手を離す。決して弦を弾こうとしないのは、眠りに就こうとする庭の木々への配慮だろう。


 しんとした闇を夜風が駆け抜けていった。

 急かされるような風の残したざわめきが、彼を振り向かせる。風のやって来た方向から、微かに感じ取れる音に彼は耳を傾けた。それは回廊を行く複数の足音に違いない。しっかりとした重みのある足取りは出来る限り音を立てぬよう気遣っているように感じ取れるが、何かに追われる焦燥感は隠しきれない。


 何かあったに違いないと感じ取った彼は、回廊からこちらが見えぬように足元に置いた灯りを腰掛け石の影へと隠した。息を潜めて、回廊の方へと意識を集中させる。


 松明の照らす回廊を慌ただしく人影が過ぎっていった。ほんの一瞬のことだったが、彼にはそれは丞相だと分かった。


 只ならぬ予感にざわめく胸を鎮めながら、彼は膝の上の琴にそっと手を触れた。

 見上げた夜空の星は密やかな煌めきを湛えて、彼を見守っていた。




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