第十一章 それぞれの孤独 (6)
笑い合ったあと、二人は口を閉ざした。そして二人同時にきょろきょろと辺りを窺って、安心したように大きく息を吐く。
「気をつけないと誰に聴かれてるか分からないよ」
エンジュに顔を寄せて、声を押し殺したユウカの顔が真っ赤に染まっている。
カイジとは王太子ギョクソウの弟で、ユウカが侍女を勤めている。
王族や高官らには複数の侍女が世話をしており、それぞれの侍女は自分が担当している王族や高官を贔屓にしていることが多い。しかしユウカの場合は担当している王子カイジに対して、それ以上の感情を持っていた。
「ごめんね、ユウカは素直だね」
エンジュは微笑んだ。目を潤ませて顔を伏せるユウカを見つめて、羨ましいと思いながら。
侍女が王族や高官に対して、こうした感情を持つことは禁じられている。それでも彼らの世話をしているうちに、感情が生まれてくることは多い。中には侍女らの一方的な感情ではなく彼らからも同じ思いを抱かれている場合もあるが、互いに思いを告げることは出来ないため結ばれることはまずない。
エンジュにはユウカの気持ちが痛いほどよく分かっていた。悲しい恋だと分かっていても、生まれた気持ちを抑えることが出来ない。
それはエンジュ自身も同じだったから。
エンジュの実家は琴の名家で父は王妃オウレンの師匠を勤めていた。また現在も、王太子のギョクソウの琴の師匠を勤めている。その縁でエンジュは王妃オウレンの侍女を勤めていたが、王妃が亡くなった後は太子ギョクソウの侍女を任されるようになった。
エンジュ自身も幼い頃から琴を嗜んでいたことからギョクソウとは面識があり、幼馴染みのような存在だった。幼い頃は身分の違いなど理解出来るはずもなく、ずっと一緒に居られるものだと思っていた。
成長と共に互いに身分の違いと一線を引かなければならないことを理解していったが、その頃には既にエンジュの気持ちは確実なものとなっていた。
「結ばれなくてもいいの、ただ傍で御世話させてもらえるだけで私は十分だから……幸せだから」
ぽつりとユウカが溢した。その言葉はエンジュの気持ちに重なり、胸が痛んだ。
二人は見つめ合って微笑むと、肩を寄せて星空を見上げた。無数に散りばめられた星たちが、夜空に滲んで輝きを増していた。