第十一章 それぞれの孤独 (5)
王城の外れに数棟の長屋が建っている。
ここは王城の中で勤める侍女らの宿舎となっており、彼女らは家族と離れて単身で働いている。家に帰ることが許されているのは年間二日だけのため、家族よりも仲間と共に過ごす時間が多い彼女らは互いに家族と変わらない信頼関係を築くようになっていた。
宿舎の前で一人、夜空を見上げる侍女が居た。彼女は胸の前で手を組み合わせ、固く目を閉じて何かを念じているように見える。
その背後から足音を立てないように、そっと近付く侍女が一人。
「エンジュ、何をお願いしたの?」
エンジュが組んだ手を解き、空を仰ぎ見た瞬間に肩に手を回して飛びついた。突然のことに、エンジュは目を見開いたまま声も出ない。
「ごめん、驚いた?」
「ユウカ……大丈夫、大袈裟に驚いてみただけ」
ぺろっと舌を出して両手を合わせるユウカに、エンジュがほっとした様子で笑った。
二人は小川の辺に置かれた腰掛け石に座って、星空を見上げた。星空とともに王城の背後が大きな陰となって目に映る。夜も更けているため、王城の窓から漏れる灯りの数はほとんど見られなくなっている。
宿舎と王城を隔てるものは、ほんの数歩で渡りきることが出来るほどの小さな橋のかかる小川しかない。橋を渡ればすぐに王城の裏口へと通じていて、緊急時など呼び出しがあった際に駆け付けることが出来るようになっている。
「ねぇ、久しぶりにエンジュの琴を聴きたいなぁ……今度聴かせてよ」
ユウカはエンジュに肩を寄せた。
二人は歳が同じで侍女として働き始めたのもほぼ同じ時期だったこともあり、姉妹のように仲が良い。一日の仕事を終えた後、一緒に話し込むことが楽しみとなっている。
「また今度ね、私なんかの琴よりも、ここに居たらギョクソウ様の音色が毎日聴けるんだよ? この世で一番素晴らしい音色よ……あの方の琴の音は、まるで高山流水が目の前にあるかのように再現される」
はっきりと力強く言い切るエンジュの表情は、誇らしげで自信に充ち溢れている。
「エンジュは相変わらずギョクソウ様贔屓だね、ギョクソウ様の琴は毎日聴けるけどエンジュの琴は滅多に聴けないから聴きたいの」
「ユウカだって、カイジ様のこと大好きでしょ」
ユウカとエンジュは顔を見合わせて笑い合った。