第十一章 それぞれの孤独 (4)
背を向けて口を閉ざしたカレンの艶やかな長い黒髪を、ミメイはゆっくりと梳かし始めた。星空を見上げるカレンの潤んだ目に、小さな星の光が輝いている。
ふとミメイが窓辺の棚へと目を向けた。棚の上で星の光を受けて一際輝いているのは、カレンが肌身離さず持っている銀色の懐剣。鞘には東都軍の紋章である龍の姿が描かれている。
「ミメイ、ごめんね……私はまだ気持ちの整理が出来ない」
ぽつりと零したカレンは、声を詰まらせた。ミメイは手を止め、再びカレンの膝を濡らす涙をそっと拭った。
「私こそ、きつい言い方をしてしまい申し訳ありません。立ち止まって、後ろを振り返るばかりでは苦しいだけ……決して急ぐ必要はないと思います。ゆっくりでも、少しずつ前に進んでください。カレン様はご自身の幸せを一番に考えてください」
しっとりとしながらも力強いミメイの言葉が、カレンの胸に沁みていく。徐々に涙が引いていく目元を拭い、星空を見上げた。
「ありがとう。でもね、私はもう少しだけ待っていたいの……あっ、流れ星」
言いかけたカレンは、とっさに両手を合わせた。固く閉じた瞼の前で両手を握り締めて、じっと何かを念じている。
しばらくして組んだ手を離したカレンは、空を仰いで息を吐く。
「何をお願いしたのですか?」
カレンの顔を覗き込み、ミメイは微笑んだ。
「内緒、言わなくても分かってるでしょ?」
振り返ったカレンは無邪気な笑顔を見せるが、その内に秘めた気持ちをミメイはよく知っている。だからこそ無理をした彼女の笑顔が、余計に痛々しく感じられてならない。
ミメイは笑って返すと、再び髪を梳かし始めた。
「私は幸せよ、きっと誰よりも恵まれてるんじゃないかしら。だって私にはミメイがいるもの、お母様が二人いるなんて誰よりも贅沢なことだと思うわ」
髪を梳かしてもらったカレンは、部屋を片付けて出ていく準備をするミメイに言った。窓辺の棚の傍に立ち、棚の上に置かれた銀色の懐剣にそっと手を触れながら。
ミメイはカレンが生まれた時からずっと彼女の侍女として勤め、今では母親以上の理解者となっているのだ。
「ありがとうございます、光栄です」
畏まって礼をするミメイを引き止めるように、カレンは抱き着いた。