第十一章 それぞれの孤独 (3)
就寝前、カレンは部屋の窓辺で体を解しながら、ゆったりと星空を見上げていた。うんと両腕を伸ばして、小さな星の瞬きを数えるように見渡しては息を吐く。
やがて扉を叩く音に振り返ると、水差しを手にした老いた侍女。彼女はカレンと目が合うと、柔かに微笑んだ。
「お体を解して差し上げましょうか」
「ありがとう、お願いするわ」
母よりも明らかに年上の彼女の物腰の柔らかな口調と優しい笑みに、カレンは安心したように笑って答えた。
俯せになったカレンの脚を、侍女は慣れた手つきで解していく。カレンは肘を枕に目を閉じ、暫し心地よさに浸っている。それは先ほどまで舞っていた時の凛とした表情とは違う、体の芯から解されて蕩けていく表情。
こうして毎晩、舞の稽古を終えた後に彼女に解してもらうのが日課になっている。カレンにとって、一番落ち着ける時間だ。
「ねぇ、ミメイはどう思う?」
名を呼ばれた侍女は手を休めることなく、僅かに首を傾げた。カレンが言うのは、太子との結婚の話に違いない。カレンは星空を見上げて、浮かない顔で答えを待つ。
「御主人様と奥様がカレン様にとっての幸せを一番に考えてらっしゃるように、私もカレン様には幸せになって頂きたいと思っております。何にも不自由することのないよう」
「ミメイまでそんなこと言うなんてがっかりだわ、私の幸せ? 太子と結婚して、私は本当に幸せになれると思う?」
カレンはミメイの言葉を遮るように言って、口を尖らせた。不満そうに大きく息を吐いて振り返ると、ミメイは申し訳なさそうな悲しい目をする。
「お父様の言いなりになって結婚することが本当に幸せ? 私の気持ちは……どうなるの?」
「カレン様、気を悪くなさらず聴いてくださいね。信じたいお気持ちはよく分かりますが、前に進む勇気も必要と思うのです」
カレンはミメイの手を払うように体を起こし、膝を抱え込んだ。顔を伏せうずくまる背中を、ミメイは悲しい目で見守っている。敢えて声を掛けないのは、彼女なりの優しさだろう。
「そうね、前に進まなきゃいけない……それは私も分かってる、小さな望みなど持っても仕方ないと、でもね……」
星空を仰いだ大きな瞳から、次々と滴が溢れ出す。声を震わせるカレンの肩を、ミメイはそっと抱き寄せた。