第十章 閉ざされた道 (11)
北都の宿舎では夕食の準備にきた侍女が、部屋の奥のベッドで縛られている侍女を発見していた。それはすぐさまモウギの耳に届き、宿舎に兵士らを引き連れてきた。
「宿舎の中も徹底的に調べろ、城門を封鎖して警備を増員し、街の中も抜かりなく捜索するのだ、決して逃がすな」
モウギの指示で、街中に多くの兵が繰り出した。
あらゆる通りで兵士らが目を光らせる様子は、事情を知らない東都の人々には異様な光景に映り、不安を抱かせる。
モウギは血相を変えて、兵士らとともに北都の宿舎の中をぐるりと捜索した。しかしリキとリョショウの姿も痕跡も、宿舎の中から綺麗に消え去っている。
「お前達は何をしていたんだ!」
宿舎の中を一回りして都督の部屋に戻ったモウギは、兵士らに罵声を浴びせた。
ひたすらに謝る兵士らを怒りに任せて蹴り飛ばし、テーブルや椅子をも薙ぎ倒してベッドに崩れ落ちるように座り込む。
「くそっ……何てことだ、何てことだよ……」
項垂れた頭をくしゃくしゃと抱え込んで、大きな溜め息を吐いた。顔いっぱいに悔しさを滲ませて。
「なぁ、お前らどうするつもりだ? 見つからなかったらどうするんだ? なぁ? 俺の手柄だったんだぞ?」
申し訳なさげに並んで俯く兵士らを、モウギは取り乱したように何度も繰り返し怒鳴り付ける。それでも我慢出来ずに地団駄を踏む姿は、将というより我が儘な子供のようだ。
何度も溜め息を吐いて頭を振っていたモウギが、ふとベッドへと目を向ける。
侍女が縛られていたベッドの上には、一本の腰紐が無造作に置かれている。おそらく侍女を解放した後、そのままの状態にしてあるのだろう。
モウギは腰紐を手に取り、ぎりりと握り締めた。再び込み上げる悔しさが行き場を無くして、その手を震わせる。
「リョショウもあの女も許さんぞ、必ずこの俺が捕まえてやるからな!」
吐き出してベッドを見回したモウギは、さらに枕の下から何かが覗いているのに気づいた。
迷わず手をした物は、小さな五輪の花が二つ三つ寄り添う様が描かれた髪飾り。この部屋で休んだリキの物に違いない。今朝リョショウとモウギが揉み合っていたのに気を取られて、忘れていたのだろう。
「忘れ物か……あの女に届けてやらねばな」
モウギは肩を震わせて笑った。