第十章 閉ざされた道 (10)
終始目を閉じたまま黙って話しに耳を傾けていたシュセイが、いつの間にかリキを見つめている。気遣うような彼の目には優しさとともに、イキョウに似た悲しさをも帯びている。
リキは唇を噛んだ。不安の波が、強くあろうとする心を今にも浚わんと大きく揺さぶる。
「先程も言いましたが、まだ特定は出来ていません。カンエイの造反に関わった者が東都の上層部にいて、統率者を失くした東都軍を掌握しているのは確かでしょう。リョショウ殿の屋敷を占拠しているのも」
リョショウの握り締めた拳が震えている。悔しさと怒りを堪える痛々しい横顔を、リキは見ることが出来なかった。
「その人物にとってあなた方の訴えは不都合……特にリョショウ殿の帰還は想定外だったのでしょう」
「なるほど、モウギもそいつと繋がっていると……明日も陛下との謁見を阻むというのか」
リョショウが冷ややかに見据えると、イキョウは頷いた。
「私達はいつになったら陛下に会うことが出来るのです? 早く北都の現状を伝えなければならないのに、どうすればいいのですか?」
リキが身を乗り出して訴える。
ここまで来たのに北都を助けられないのかもしれないという絶望感が、リキのすべてを支配する。
「残念ですが、今は諦める他ないでしょう、今はあなた方の身の安全を優先させなければ」
リキは何も返すことが出来なかった。頭の中が真っ白になり、何から考えればいいのか分からなくなっていく。それでも込み上げてくる涙だけは決して流してはいけないと、懸命に堪えることしか今は出来ない。
「何なんだよ! どうしろと言うんだ!」
リョショウが吐き捨てて、テーブルに拳を叩きつけた。悔しげに肩を震わせて、唇を噛み締める。
「何故、北都の宿舎の警備が厳重だったか分かりますか?」
「彼らは都合の悪い情報を外部に漏らさぬよう、お二人を消そうとするでしょう。早ければ今夜かもしれません。今は身の安全を優先させるべきです」
イキョウに続くシュセイの口調は力強く、二人に確実な危機が迫ることを告げる。
沈黙に支配された部屋に、俄に異音が飛び込んだ。複数の足音と怒声が混じり合う音は、確かに北都の宿舎の方向から聴こえてくる。
既に空から陽射しは跡形もなく消え、薄暗さを増していく部屋で四人は強張った表情で窓を見つめていた。