第十章 閉ざされた道 (9)
いつしか窓に映った日差しが、部屋全体を赤く染めている。隙間から入り込む風が、テーブルを囲む四人の髪を涼やかに揺らしながら通り抜けていった。
「それが、すべてですか?」
話し終えたイキョウが小さく息を吐くと、リョショウは静かに問い掛けた。
「これは私の憶測で確証は得ていないのですが、北伐とカンエイの造反に関連して何か裏があるように思えて仕方ないのです」
ふとリョショウの口元が動いた。彼が込み上げてくる感情を押し殺そうとしているのが、横目で見ていたリキにもはっきりと分かる。
「では明日、私達が陛下に謁見する際に話してきましょう」
リョショウの穏やかな声に、リキはほっとして顔を上げた。
しかしリキの目に映るのは、顔を曇らせたイキョウ。固く口を噤んだ表情に、何かしら躊躇う気持ちが見え隠れしている。それを察したリョショウが返答を急かすように、イキョウを見据える。
「リョショウ殿、恐らく陛下には謁見出来ないでしょう」
暫し見つめ合った後、イキョウは答えた。宥めるような穏やかな声だが、リョショウは顔を強張らせて鋭さを増していく。
先ほど一人で来た際に話されることのなかった内容に、リキの胸がぐらりと揺れた。
「どういうことでしょう? 既に段取りはしてあります」
リョショウが反発するように強く返すと、イキョウは小さく首を横に振る。
「陛下に謁見出来ない理由は陛下の体調不良のためとモウギという東都軍の将が言ったそうですが……恐らく嘘でしょう」
「嘘? モウギが騙したと、いうのですか?」
高ぶる気持ちを抑えようとして、リョショウの声が震えている。その表情はいつ立ち上がってもおかしくないほど、怒りに満ちている。
「はい、彼はあなた方を陛下に会わせないよう指示した者と通じていると思われます。東都軍の一将にすぎない彼が宿舎を用意することや、判断を下すことが出来るとは思えない。あなた方を都督府に待たせている間に、何者かに判断を仰いだのでしょう」
冷静に諭すようなイキョウの言葉を噛み締めるように、リョショウは静かに頷く。
「私達は騙されていたのですね」
声を震わせるリキを見つめて、イキョウは悲しげな目をしていた。