↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あぶはちとらず改稿版 ~全員片思いのすれ違い群像劇~  作者: 井氷鹿
第5章 Grasp all , Lose all.3 1995年 夏 亘編2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/56

53.縁は異なもの味なもの5 Strange Ties and Sweet Bonds.

 一巡目の手順見直し、先生のログ確認、後は全員二巡目の手順を確認する。

 僕は自分のスクリプトをもう一度見直し、手直しができそうな箇所を見つけ少し変えてみた。

「良いところに目を付けたな」

 急に気配がして、背中に毛布を掛けられる。

「休憩を挟もう」

 振り返ると、先生が自分も毛布にくるまって立っていた。

 毛布にくるまったからか、先生の鼻先が赤くなっている。

 僕よりずっと年上のはずなのに、なんだか可愛らしく見えるよ。

「潔くんが持ってきてくれたんだ」

「総務の諏訪さんが、毛布用意してくれたんですよ」

 と、“保きよし”が笑顔で自分の毛布を見せるように肩を突き出した。

「暖かいっスよね」

「久美ちゃんも、良く気が回るよ」

 え? 諏訪さんもご存知で?

「日向、知らなかったの? 久美ちゃんもあたしのゼミ出身」

「はぁああ?」

 思わず画面に映る先生を見つめてしまった。

「バリッバリの理系女だよ。だから今でも大学とインターンの橋渡ししてるでしょ。論文読めるから人選もできるし」

「先輩と仲良いわけだ」

「久美ちゃんが、一期上かな」

 なんか裏事情を知った気分だ。

 世間って狭い。

 毛布のお陰か気が緩んだせいか、背中が温かいや。

「一回、休憩を挟むよ~。外出て暖を取って。温まったら二巡目行くからね」

 先生の一声で、毛布にくるまった集団がぞろぞろとサーバ室から外の通路へ歩いて行く。

 外ってこんなに暖かかったっけ。

 生暖かい空気が、鼻腔を抜け肺に入るのが分かる。

 でも毛布は離せないな。

「温度差、激しすぎ」

「外に出たら、逆に寒いわ」

 たしかに、生ぬるい空気のせいか身震いがするよ。

 なんやかんや喋りながら、自販機のあるフロア休憩室へ向かう。

 先生が「平川からの差し入れ」とか言いながら、小銭を渡してくれた。

 カップのコーヒー、一杯四十円なんだよね。

 そうだ、と思い壁の時計を見たら、嘘。

 もう十時を回ってるじゃん。

「平川はやんごとなき用事で、八時には出てったよ」

 と先生が教えてくれた。

 なんだ、間に合ったんだ。

 先輩、紅緒と何食べたんだろう。

「そしたら目下、夜の営業中ですかね先輩は」

 あーあ、僕は行けなかったか。

「難儀なポジションだよね、アイツも」

 コーヒーを飲み終え、カップをゴミ箱へ投下する。

「二回目行くよ~。今度こそスパッと一回で通すよ!」

 先生が声掛けをする。

「おっす」

 全員で応える。

 みんなが僕の前を通り過ぎる時、僕の肩を叩いていく。

「頑張れ、亘」

 とジョブ管理の”保つとむ”さん。

「他は任せろ」

 ハード担当の”保まさ”さん。親指立てて、ウインクまでしてくれた。

「な、亘」

 コンソール監視の”保きよし”さん。

 毛布の上から力強く肩を叩かれる。

 その仕草に、皆の信頼が伝わって来る気がした。

 「まだ学生なのに、偉いなぁ」

 サーバ管理の”保ただし”さんは一番の年長者だ。

「足引っ張らない様に、必死なだけですよ」

 そう言ったら、僕を見上げ相好を崩した。

「ほら、亘、頭下げ」

 そう言われ頭を下げると、よしよしと撫でられた。

「可愛いやっちゃなぁ」 

 あはは、気合が入るなぁ。

 父が生きてたら、と考えてしまった。

 再びぞろぞろと毛布をかぶった集団と、サーバ室へ戻る。

 ”保つとむ”の合図を待って、本日二巡目の並列実装テスト開始だ。

 

「亘、こっちは良いぞ」

「サーバ機器、一式問題無し」

「いつでもどーぞ」

「さぁこいだ」

 一斉に声がかかる。

「行きます!」

 頼む! 午後十時十四分、エンターキーを叩いた。

 サーバ室内に響いているファンの音が、一際大きく唸ったような気がした。

 モニターの数値が跳ねあがる。

 さっきと同じ反応なんだけど、イケるのか?

 横で”保きよし”の声がした。

「来たぞ……」

 何が? 後ろの気配が動いた気がして振り返る。

 一目瞭然。

 全体の起動状態が見えるよう、ここのサーバ室はサーバラック列がコンソールのテーブルに対し斜めに並ぶよう設計されている。

 まさに、HDQ群の列に”保まさ”がラックの中のサーバを睨んでいた。

 

 10分、20分……

 最初の30分が勝負なんだ。

「保まさ、温度は?」

 先生が叫ぶ。

「危ないですね、上限ギリギリです!」

 警告音も鳴らないまま、node03が温度保護でストンと落ちた。

 エンストしたように機械音が収束し、プツンと切れる。

 合わせてファンの音も止まる。

 でも、最初の失敗とは全然違う空気感だ。

 焦りじゃなく、全員が状況を読んでいる感じ。

 

「node03落ちた!」

「NFS遅延! I/O詰まってる! 先生」

「保きよし、ログ回せ。今の落ち方、理由分かったよね亘」

「なんとなく」

 なんかうまく走った気がしたのに、どこで負荷が最大になったんだ?

 先生と一緒にログと状態を確認して。

「あ、スケジュラーここ」

「バッチ組みなおしだな。30分でイケるか?」

「何か先が見えてきた、頑張ります!」

 十時五七分、原因解明。

 十一時二五分、バッチ組み直し完了。

 

「できました! 皆さんお願いします」

 そう言って僕はコンソールから直でバッチを流した。

「オーケー。見張っとくからな亘」

「”保まさ”リブートお願い」

 と先生。

 ハード保守担当の”保まさ”が、親指を立てる。

 重低音が唸り、ファンが回りだした。

 数秒の沈黙。

「……動いた!」

 ”保きよし”の声に、モニターの数値が一斉に跳ね上がる。

 後ろのサーバ群を見ると、赤から橙、橙から緑へ。

 ランプが順番に灯り、最後の一つが緑に変わった瞬間、みんなの息が一度に弾けた。

「通った……か?」

 誰かが呟き、次の瞬間、拍手が起きた。

 僕も思わず手を叩いていた。胸が熱くなる。

 先生が大きく伸びをして、腕時計を見た。

「もう夜が明けたころかな」

 みんな、誰からともなく息を吐き、肩を叩き合っていた。

 ファンの唸りが遠く感じられるほどの静けさが、サーバ室を包んでいる。

 

「よし、今日はこれで撤収!」

 壁時計の針は午前四時を指していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。