41.本木にまさる末木なし3 Original stands above all.
今朝の投稿が遅れてしまいました。
41話です。
紅緒が俺の手を額に当てて、目を閉じた時。
視界の隅で亘が視線をそらしたのが見えた。
そのまま田中と何か話をしている。
「直ちゃんの手、冷たくて気持ちいい」
「そうか」
改めて、手のひらを額に当てそれから両手で顔を挟んだら。
顔には出ないが、こりゃ熱いな。
「酔ってんのか」
「グラスで、まだ三杯程度だよ」
「三杯? え、そんなに飲んでたっけ」
と亘が素っ頓狂な声をあげた。あいつは最初のグラスがまだ半分残ってる。
シンデレラで醜態さらしたの、まだ堪えてるのかよ、情けねぇな。
「だって、これせっかくシェフが用意してくれたモスカートワインだもん。微発泡でめちゃ美味しいじゃん」
グラスだって小さいし、と紅緒がボトルを持って亘へすすめる。
「口当たり良いから飲みやすいでしょ」
ほら、と亘に迫る。
紅緒に勧められ、亘が嫌がるはずがない、よな。
案の定、グラスを空けてどうぞと目の前にグラスを置いた。
「よしよし。お祝いだからね、楽しく飲まないと」
亘がグラスの脚に手を添えたのを見て、紅緒が淡い金色のワインを注ぎはじめた。
グラスの底から気泡が立ち上がる。
「べーちゃん、俺も」
と田中も空のグラスを紅緒の近くに置いた。
「ちょっと待ってよ。足りるかな」
とボトルを傾け田中のグラスに注ぎ、まだあった~とオレに向けてきた。
「直ちゃん、最後の一番濃いところどーぞ」
「お、サンキュー紅緒」
残っていたワインを飲み干し、グラスを置く。
そうだ、こうやってみんなでテーブルを囲んで誕生会は今年までなんだ。
来年、紅緒は日本に居ない。
オレはきっと研修の最終段階で、課題に追われてるんだろうなぁ。
そして、二回目の試験に向けた毎日が始まるんだ。
「デザートを頼んでくるよ」
田中が席を立ち、カウンターに立つシェフに話に行った。
なんだよ、サプライズとか勘弁しろよ。
跳ね上げ式のカウンターが上がり、ワゴンが見える。と同時に店内が暗くなった。
シェフがデザートのタルトを乗せたワゴンを押して出てきた。
タルトには線香花火が二本刺さって、音を立てて弾けている。
どこからか、ハッピーバースデーのオルゴール曲が流れてきた。
ギャルソンがテーブルの上をかたずけていく。
それから細身のワイングラスが置かれ、新たなワインが注がれた。
「リースリングワインをご用意させていただきました」
ボトルを掲げ、こちらに見せる。オレが試飲するの?
一口飲んだら、先の甘めのワインと違い酸味があってすっきりしている。
フルーティでこの甘酸っぱさは癖になるな。
「うん、これ美味しいです」
ギャルソンは微笑んで会釈を返し、ワインをサーブしてくれた。
「このワイン、実はドイツ産なんですよ。フレンチビストロですが」
とシェフが耳元でささやいた。
え、っと思って振り向いたら、満面の笑顔でまたウインクされた。
ワゴン上のタルトをテーブル中央に置いて、田中と何か話をしてる。
タルトに刺さった花火はまだパチパチと弾けたまま。
「崇直、直樹。お誕生日おめでとう!」
そう言って田中が立ち上がり、右手で指を鳴らした。
「ウゥーー~っ」
と突然シェフとギャルソンと田中が音を取り、アカペラでスティービーワンダーのバースデーソングを歌い始めた。
伸びのいいアルトの歌声で田中が旋律を歌う。
遅れて、シェフが入ってきた。
驚きの、テノールだよ。
この人、こんな声出るんだ。
そして少し離れた場所から、ノリノリでベースを刻む別の低い歌声。
ギャルソンだ。
今度は奥から、手拍子をしながら別のギャルソンが歌い始めた。
釣られて、みんな手拍子を始める。
これじゃ、まるでコンサート会場だ。
「Happy birthday to you」
歌が終わると、店内の照明が一気に戻った。
わっと歓声が上がり、お店に居たお客が拍手をしてくれた。
中には立ち上がっている人もいて、片手にワイングラスを掲げている。
「あ、ありがとうございます。無事、二十三歳になりました!」
オレも立ち上がり、グラスを掲げお礼を返した。




