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あぶはちとらず改稿版 ~全員片思いのすれ違い群像劇~  作者: 井氷鹿
第3章 Grasp all , Lose all.2 1995年 夏 亘編

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24.草狩る山路が笛の音1 Every step you take my eyes follow.

 うわぁあっ。やっちまった。

 紅緒を部屋に入れてしまったぞ。

 くそぉ、ダメだ。

 あいつの顔がちらついてしまう。

 だから、今夜は一人になりたくなかったのに。

 崇直に泊まっていけって、言えばよかった。

 せめて下まで見送りたかったのに。

 あんなにあっさり帰らなくても良いのにさ、なんで帰っちゃうかな。

 ん?

 エレベーターの⇩ボタンが点灯してる。

 崇直、戻って来るのか。

 あーーーーっ!!!

 今夜、家で久々に飲もうぜって言ってたんだった。

 あぁあぁぁ、すまん。色々とすまん崇直。

 エレベーターが上昇してきた!

「崇直、スマン」

 

 本当にごめん。すっかり忘れてた。

 いきなり目の前に出てきたんだぞ!

「まさか、紅緒がいるなんて思わねーだろ。それに、先輩がまー爺どころか紅緒やおまえとも顔見知りって」 

 思わずため息が出る。誰が想像するってんだよ。

「僕だけ蚊帳の外だ……」

 落ち込んでたら、崇直が肩を軽く叩いてきた。

「おまえ、まー爺の仕事知らなかっただろ」

 え、そっち?

 そーなんだよ。必殺遊び人が名刺持ってたんだよ。

「驚いたよ。笠神ビルの取締役だって。名刺もらっちゃった」

 崇直によるとあのクラブのオーナーで、こっちがメインの仕事らしい。

 先輩も言ってたな、人脈のハブのような仕事だって。

「僕が研究してるのがまさにそれで……」 

 今、学んでるのが、この人脈のハブとその流れのシステム化なんだよね。 

 意気揚々と説明してたはいいが。

 参ったね。

 崇直が、腹減ってると思って何かないかと冷蔵庫開けたんだけどさ。 

「どうしよう、崇直。ナンにもない」

「コンビニでも行くか?」

 お互い顔を見合わせる。

「腹減ってる? もしかして」

 だよな。僕のせいで、ゴメンよ。

「そうだ! 冷凍の餃子があるんだ。生餃子、近所の中華屋で冷凍買ってきてたんだ。それからご飯もあるから、それ食べよ、な」

 僕は冷凍庫から餃子の入った袋を取り出した。確か二人前はあったはず。

 パントリーを開け、買い置きのパックご飯を取り出しシートをはがして電子レンジに突っ込んだ。

 餃子は箱入りなんだが、ビニールでコーティングが手じゃ裂けねえや。

 歯で噛み切れるか、これ。

 よし上手く裂けたぞ。

 焼こうとしたら崇直が自分でやるからと、フライパンごと持っていかれた。

 それにしても、喉が渇くな。あんな酒の飲み方はやっぱ宜しくないね。

「晩飯は先輩と食べたから、全部食って。あー、喉がカラカラだ」

 そうだ、紅緒が作ってくれたレモン水、あれ美味かったな。崇直の分も作ってやろう。

 あの麦茶も、今度教えてもらって買っとくか。

「これ美味いな。麦茶もだが、なんか今日は意外なことだらけだったよ」

 レモン水を渡すと、崇直は一口呑み美味いねって笑う。

 トレイを出してやったら、そこに焼きたての餃子とチンした炊きたてご飯、僕の作ったレモン水を乗せリビングへ持っていった。

 美味そうに餃子を食ってる崇直を見てたら、幸せそうで何だか眠くなってきたよ。

 欠伸が止められない。

「ふああぁ~っ。食ってる間に先に風呂入ってて良いか。布団出すの面倒だから、一緒でいいよな」

 ゴメン崇直。

 いつも僕が隣で気持ち悪いだろうが、一人寝は特に今日は辛いんだ。付き合ってくれ。

「ついでにパジャマも出しとくよ」

 あーあ、すっごい呆れた顔でこっちを見てるよ。

 そんなに嫌がらなくても、いいじゃん。

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