11.落花情あれども流水意なし4 The love to no avail.
三人で亘の部屋に行くのって、何年ぶりだろう。
直樹が死んで以来だから、紅緒は五年は行ってないのか。
紅緒は両親を早くに事故で亡くしている。
その事故で紅緒自身も事故以前の記憶を一部失っていた。
亘も中学で両親を亡くしている。
そしてオレは双子の弟魂の半分を病で。
あれ以来、何をしても全部裏目に出てる気がするよ。
あいつさえ生きてたら、と詮の無いことばかり考えてしまう。
くそっ。
オレと紅緒はハトコとはいえ、血は繋がっていない。
戦時中のゴタゴタで、戦災孤児だった家の爺さんが笠原家へ養子に来たからだ。
跡を継ぎたくなかったまー爺は、これ幸いと神社を兄になるオレらの爺さん、輝爺てるじいに押し付けたらしい。
そのせいかは知らないが、俺等の家は隣同士と言うより同じ敷地に建っている。
母屋にオレら家族が、新宅にまー爺一家が住んでいる。
紅緒とは、彼女の両親が亡くなってから中学まで一緒に暮らしていた。
まー爺たち夫婦は仕事で帰りが遅いうえに、家を空けることが多いからだが。
それより、母親が紅緒の母と友人だったことと、娘を欲しがっていた事が大きいけどな。
さて、降りる準備しなきゃ、だ。
またこいつを背負うのか。
隣で気持ちよさそうに寝ている亘の顔を見る。
やれやれだ。
鼻先を腹たち紛れに指で弾いてやった。
「うわっ、痛そう」
紅緒が代わりに顔をしかめた。
当の本人は一瞬顔を歪めたが、また寝息を立てて知らん顔だ。
「嵩ちゃん、チケットもらったから大丈だよ」
オレが財布を取り出すと、紅緒がそう言って微笑んだ。
店からもらったタクシーチケットをバックから出し、運転手に渡す。
さてと、もうひと踏ん張りがんばりますか。
ハイヤーから再び亘を背中にかかえ、マンションのエントランスに入る。
入口の暗証番号を押してドアが開くと紅緒が先に走って、エレベーターを呼びに行った。
左にオレのリュック、右に亘と自分のバッグを下げてるのに、フットワーク軽いなぁ。
オレのは白表紙に資料突っ込んだから、かなり重いはずだが。
あいつも、伊達にバスケやってなかったか。
「べー、エレベーターの鍵、亘の鞄に」
「オッケー」
オレのリュックを軽く揺すって肩にかけ直し、亘の鞄を胸に抱えて中に手を突っ込んだ。
亘は最上階に住んでいるが、このエレベーターはボックスの解除キーを使わないと最上階へ行けない仕様になっている。
紅緒がキーホルダーを出し、鍵を刺した。
最上階ペントハウスのボタンが点灯し、逆に他の階のライトが消える。
「毎回これやってるんだ、わーちゃん。めんどくさくないのかな」
「家の鍵開けるのと同じ感覚じゃないの」
「家にエレベーター無いよ」
用がなくても最上階に興味があるやつは居るからな、用心なんだろうが。
絶対面白がって作った気がしてんだよな。要人用のセキュリティモデルとかなんとか。
まー爺ならやりかねん。
「あ、着いた。先、玄関開けとくね」
紅緒にドアを支えてもらい、中に入る。
そのまま三和土に降ろしてやろうかとも思ったが、紅緒が甲斐甲斐しく亘の靴なんか脱がすから中まで連れて行ってやることにする。
うーん。
やっぱりムカつくので、リビングの長椅子カウチに背中から倒れ込んでやった。
「嵩ちゃん、お疲れ〜」
ふぅ。あー肩凝ったぜ。
しばらく亘の上で体を休めて、起き上がる。
こいつは着替えさせたほうが良いのか、やっぱり。
「亘の着替え見繕ってくる」
「うん」
脱衣所のリネン室にパジャマとか入れてあったよな。
中に入ると今朝脱いだと思われるシャツと短パンが、無造作に洗濯機横の棚に脱ぎ捨ててあった。
ふーん。




