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週末、和真との関係に決着を付けると決めた瑞穂は、和真の実家を訪ねていた。


リビングのテーブルの前に座っていたのは、和真とその両親、それにルカ。

今から四人に責められるとなれば、瑞穂はまな板の上の鯉も同然だった。


「和真から聞いたわ。瑞穂さん、よくも私の息子に酷いことをしてくれたわね」

「婚約解消だなんて、息子に恥をかかせたんだ。今すぐ謝りたまえ!」


どんな話を吹き込まれたのかはわからないが、和真の両親は怒りを露わにする。

しかし、臆することなく彼らの前に立った。

瑞穂は、声を大にして言う。



「……私は、謝罪しません!」



それを聞いた和真は、険しい顔をする。


「はあっ? 瑞穂、何言ってんだよ?」

「私は、悪いことをしていないから、謝る必要ないでしょ?」


はっきりとした口調で、瑞穂は主張を続ける。


「和真さんと別れたのは、和真さんが浮気をしたからです。相手は、そちらの方です」


浮気相手と紹介されたルカは憤慨する。


「ちょっと瑞穂。人聞きの悪いこと言わないでよねっ!」


和真の両親の方を向いたルカは、いつもの甘ったるい猫なで声だ。


「瑞穂って、いつも平気で嘘を吐くんです~っ。そうやって、アタシのことを陥れようとするんですっ!」


彼女に嘘吐き呼ばわりされるのは、もううんざりだった。


「和真、証拠はあるのかって、私にそう言ってたよね?」


瑞穂は、バッグから録画用のハードディスクを取り出す。

それをリビングのテレビにつなぐと、リモコンを手にして電源を入れる。

録画の再生を実行すると、大画面のテレビにとある映像が流れ出した。



『瑞穂ったら、こーんな素敵な部屋に住んでるんだね』



ペットカメラでとらえていた、あの映像だ。


『いいな~っ。リビングは広いし、カウンターキッチンもオシャレ』


下着の上にカッターシャツを羽織っただけの、あられもない格好をしたルカが、カメラを覗き込んでいる姿がテレビに映し出される。


和真の母は「汚らわしい」と嫌悪感を露わにし、父は気まずそうに顔をそらす。

映像の主役とも言える本人は、真っ青になって悲鳴を上げた。


「いやあーーーーっ! 何よこれ!?」


忘れたとは言わせない。



『ちょっと、これ! このバッグ、アタシも欲しかったの!』



ルカが瑞穂の部屋へ勝手に入っていって、買ったばかりのバッグを持ち出した――その瞬間が、はっきりと映っていた。


「違うの! これはアタシじゃない! あのバッグはアタシのなのっ!」


立ち上がったルカは、テレビの前まで行くと、映像を見せないように画面を隠そうとする。


「見ないで! こんなの全部嘘だよっ!」


けれど、大画面のテレビは隠しきれていないし、なんなら音声だけでも相当なインパクトだ。


『超可愛い! 貰っちゃおうかなっ!』


『だって、瑞穂にはもったいないでしょ? この部屋も、このバッグも、カレシも、会社も、主任って地位も。いいもの持ちすぎ。ねえ? 瑞穂のくせに生意気じゃない?』


『顔だって大したことないし、スタイルなんて芋だし、性格も何もかも全部ブス』


明るくて人懐っこくて、誰からも愛されるルカという虚像は、脆くも崩れ去っていく。


「何だよ、この映像……ルカ、どうなってるんだ」

「和真、違うの! アタシ、こんなことしてないっ!」


和真のもとへ駆け寄ったルカは、彼に縋り付こうとした。

そのとき、テレビの画面に下着一枚の和真が映し出される。


『織田さん、そんなところで何してるの?』

『別に、何でもないですーっ。南澤さん、飲み過ぎたんじゃないですか?』

『ああ、ちょっと……頭が痛くて……』

『ほら、危ないからベッドに戻って』


画面の端で抱き合うふたりがキスをする……衝撃のシーンを見た和真の母は、両手で顔を覆う。

恥ずかしさからか、それとも泣きだしてしまったのか。どちらにしても、相当ショックだっただろう。


映像の再生が終わると、瑞穂は改めて宣言する。



「そういうわけですから、私は謝罪しません」



和真の両親が、ガクッと肩を落す。

証拠を突きつけられた和真は、言い訳もできなくなってしまったのか、それきり黙り込んでしまった。


「ねえ、ルカ。そのバッグだけど……」


瑞穂は、ソファーに無造作に置かれていたバッグを指差す。

ルカはバッグを手に取ると、中身を乱雑に取り出した。

そうして、バッグを床に叩きつけた。



「こんなバッグ、いらないわよっ!」



雑に扱かわれてきたのか、バッグはすでにボロボロだ。


「待って、ルカ! そのバッグ、弁償してもらえる?」


瑞穂がそう言うと、ルカは真っ赤になる。


「はあっ? 何言ってんの? ばっかじゃないの? そんなバッグひとつで、金取ろうっての? そんなの詐欺じゃない! 脅迫するっていうなら、警察に訴えてやるんだから!」


鬼の形相で迫り来るルカに、瑞穂は反論した。


「それはこっちの台詞。盗難で被害届を出すから。ちょうど証拠もあるしね」


ルカは、財布から取り出したお札を瑞穂に向かって投げつける。


「払えばいいんでしょ! 払えば!」


パサッと、床にお札が散らばる。


「はいはい、これで満足でしょう? この詐欺女がっ!」


散々暴言を吐いたルカは、ひとりで部屋を出て行こうとする。


「……ルカ!」


咄嗟に呼び止めた瑞穂は、振り向いたルカに言う。


「お金、全然足らないから!」


その言葉に、プライドを傷つけられたのだろう。

瑞穂のもとへ詰め寄ったルカが、鼻先がつきそうな距離で睨み付けてきた。



「……絶対に、このままじゃ終わらせないから。覚えてらっしゃい」



そう吐き捨てると、ルカはひとりでその場を後にした。



お読みいただきありがとうございます。

今後⑳話以降は執筆しつつ随時公開していきますので、ブックマーク機能をご利用いただければと思います。

評価等もいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。


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