⑳
週末、和真との関係に決着を付けると決めた瑞穂は、和真の実家を訪ねていた。
リビングのテーブルの前に座っていたのは、和真とその両親、それにルカ。
今から四人に責められるとなれば、瑞穂はまな板の上の鯉も同然だった。
「和真から聞いたわ。瑞穂さん、よくも私の息子に酷いことをしてくれたわね」
「婚約解消だなんて、息子に恥をかかせたんだ。今すぐ謝りたまえ!」
どんな話を吹き込まれたのかはわからないが、和真の両親は怒りを露わにする。
しかし、臆することなく彼らの前に立った。
瑞穂は、声を大にして言う。
「……私は、謝罪しません!」
それを聞いた和真は、険しい顔をする。
「はあっ? 瑞穂、何言ってんだよ?」
「私は、悪いことをしていないから、謝る必要ないでしょ?」
はっきりとした口調で、瑞穂は主張を続ける。
「和真さんと別れたのは、和真さんが浮気をしたからです。相手は、そちらの方です」
浮気相手と紹介されたルカは憤慨する。
「ちょっと瑞穂。人聞きの悪いこと言わないでよねっ!」
和真の両親の方を向いたルカは、いつもの甘ったるい猫なで声だ。
「瑞穂って、いつも平気で嘘を吐くんです~っ。そうやって、アタシのことを陥れようとするんですっ!」
彼女に嘘吐き呼ばわりされるのは、もううんざりだった。
「和真、証拠はあるのかって、私にそう言ってたよね?」
瑞穂は、バッグから録画用のハードディスクを取り出す。
それをリビングのテレビにつなぐと、リモコンを手にして電源を入れる。
録画の再生を実行すると、大画面のテレビにとある映像が流れ出した。
『瑞穂ったら、こーんな素敵な部屋に住んでるんだね』
ペットカメラでとらえていた、あの映像だ。
『いいな~っ。リビングは広いし、カウンターキッチンもオシャレ』
下着の上にカッターシャツを羽織っただけの、あられもない格好をしたルカが、カメラを覗き込んでいる姿がテレビに映し出される。
和真の母は「汚らわしい」と嫌悪感を露わにし、父は気まずそうに顔をそらす。
映像の主役とも言える本人は、真っ青になって悲鳴を上げた。
「いやあーーーーっ! 何よこれ!?」
忘れたとは言わせない。
『ちょっと、これ! このバッグ、アタシも欲しかったの!』
ルカが瑞穂の部屋へ勝手に入っていって、買ったばかりのバッグを持ち出した――その瞬間が、はっきりと映っていた。
「違うの! これはアタシじゃない! あのバッグはアタシのなのっ!」
立ち上がったルカは、テレビの前まで行くと、映像を見せないように画面を隠そうとする。
「見ないで! こんなの全部嘘だよっ!」
けれど、大画面のテレビは隠しきれていないし、なんなら音声だけでも相当なインパクトだ。
『超可愛い! 貰っちゃおうかなっ!』
『だって、瑞穂にはもったいないでしょ? この部屋も、このバッグも、カレシも、会社も、主任って地位も。いいもの持ちすぎ。ねえ? 瑞穂のくせに生意気じゃない?』
『顔だって大したことないし、スタイルなんて芋だし、性格も何もかも全部ブス』
明るくて人懐っこくて、誰からも愛されるルカという虚像は、脆くも崩れ去っていく。
「何だよ、この映像……ルカ、どうなってるんだ」
「和真、違うの! アタシ、こんなことしてないっ!」
和真のもとへ駆け寄ったルカは、彼に縋り付こうとした。
そのとき、テレビの画面に下着一枚の和真が映し出される。
『織田さん、そんなところで何してるの?』
『別に、何でもないですーっ。南澤さん、飲み過ぎたんじゃないですか?』
『ああ、ちょっと……頭が痛くて……』
『ほら、危ないからベッドに戻って』
画面の端で抱き合うふたりがキスをする……衝撃のシーンを見た和真の母は、両手で顔を覆う。
恥ずかしさからか、それとも泣きだしてしまったのか。どちらにしても、相当ショックだっただろう。
映像の再生が終わると、瑞穂は改めて宣言する。
「そういうわけですから、私は謝罪しません」
和真の両親が、ガクッと肩を落す。
証拠を突きつけられた和真は、言い訳もできなくなってしまったのか、それきり黙り込んでしまった。
「ねえ、ルカ。そのバッグだけど……」
瑞穂は、ソファーに無造作に置かれていたバッグを指差す。
ルカはバッグを手に取ると、中身を乱雑に取り出した。
そうして、バッグを床に叩きつけた。
「こんなバッグ、いらないわよっ!」
雑に扱かわれてきたのか、バッグはすでにボロボロだ。
「待って、ルカ! そのバッグ、弁償してもらえる?」
瑞穂がそう言うと、ルカは真っ赤になる。
「はあっ? 何言ってんの? ばっかじゃないの? そんなバッグひとつで、金取ろうっての? そんなの詐欺じゃない! 脅迫するっていうなら、警察に訴えてやるんだから!」
鬼の形相で迫り来るルカに、瑞穂は反論した。
「それはこっちの台詞。盗難で被害届を出すから。ちょうど証拠もあるしね」
ルカは、財布から取り出したお札を瑞穂に向かって投げつける。
「払えばいいんでしょ! 払えば!」
パサッと、床にお札が散らばる。
「はいはい、これで満足でしょう? この詐欺女がっ!」
散々暴言を吐いたルカは、ひとりで部屋を出て行こうとする。
「……ルカ!」
咄嗟に呼び止めた瑞穂は、振り向いたルカに言う。
「お金、全然足らないから!」
その言葉に、プライドを傷つけられたのだろう。
瑞穂のもとへ詰め寄ったルカが、鼻先がつきそうな距離で睨み付けてきた。
「……絶対に、このままじゃ終わらせないから。覚えてらっしゃい」
そう吐き捨てると、ルカはひとりでその場を後にした。
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