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瑞穂とルカが一悶着あった後、デザイン案の件は仕切り直し。

改めて機会が設けられ、広報部の部長と藤塚課長、それに白川も呼び出され、瑞穂とルカも含めた五人で話し合うことになった。


瑞穂と白川は、AIを使用していないか調べるよう改めて申し出た。

しかし、ルカはデザイン案をまとめる際に使用したパソコンの提出を拒否した。

もちろん、スマホも見せてくれるはずがなくて……。


疑惑はあるが確証は取れず、ルカが再び泣きだしてしまったことで、聞き取りできる状態ではなくなり、進展のないまま話し合いは終了した。


「……豊嶋主任、巻き込んでしまってすみませんでした」

「ううん、私の方こそ力になれなくてごめんね」


会議室を後にした瑞穂は、白川と別れて広報部のフロアへ戻る。

時刻は午後六時過ぎ。就業時間はとっくに過ぎていた。

残業で社内に残っている人もたくさんいて、広報部のフロアには梶と忽那の姿もあった。


ふたりは、ちょうど帰宅するところ。

瑞穂は、すれ違いざまに挨拶する。


「梶さん、忽那さん、お疲れ様でした」


梶は、ペコッと頭を下げただけ。

忽那にいたっては、無視して通り過ぎていった。

ショックを受けた瑞穂は、ズキズキと痛む胸を両手で押さえて、壁にもたれかかる。



まさか、梶と忽那にまであんな態度を取られるなんて……。



瑞穂は、崩れるように膝をつき、そのまま座り込んでしまった。

その場へ通りかかった総太朗が、瑞穂に駆け寄る。


「豊嶋先輩、大丈夫ですか?」


声をかけられた瑞穂は、そっと顔を上げる。


「平気。ちょっと気分が悪いだけだから」

「ちょっとじゃないですよ。顔が真っ青ですよ」

「これくらい、たいしたことないから……」


立ち上がって歩き出そうとしたらふらりと目眩がして、倒れそうになった瑞穂を総太朗が支える。


「タクシーを呼びますから、ちょっと待っててください」


その日は、そのまま帰宅することになった。



***



マンションの前で代金を支払い、タクシーを降りる。

不意に空を仰いだのは、夜空を見るためじゃない。

和真が帰っているか、確認したかったからだ。

部屋の灯りが付いているのを見つけた瑞穂は、部屋へと急ぐ。



――もうこれ以上、悪いことは起きないで……そう願っていた。



けれど帰宅後、リビングで待ち構えていた和真が瑞穂に言う。



「結婚の話は、なかったことにしよう」



軽蔑するような眼差し。ほんの数日前までは、この場所で笑い合っていたのに、壊れるのはあっという間だった。

それもこれもすべて、ルカのせいだ。


「……どうして急にそんなこと言うの?」


「学生時代、瑞穂が織田さんをいじめてたんだって?」


和真は、ルカから吹き込まれた嘘を信じて、瑞穂と別れると言っているのだ。

むしろ『他に好きな人ができた』とか『嫌いになったから』という理由の方が、誠実だと思えただろう。


「……いじめ? そんなわけないでしょ」


ルカをいじめたことなんて、一度たりとないのに。

それどころか、嫌なことをされてきたのは瑞穂の方だ。


「ルカがそう言われたんだよね? でもそれ嘘だよ。いつもそう。あの子は平気で嘘を吐くの」


嘘を吐いて周囲を引っかき回したり、誰かひとりを追いやったり。

その餌食になるのは何度目だろう。


「織田さんの友達に電話して、話を聞いたんだ。確かにそうだって言ってたよ」

「それもいつものやり方なの。口裏合わせるように頼んでるんでしょ」

「わざわざそんな嘘吐くなんて、ありえないだろ」

「あるえるの! だって、ルカだから!」

「おまえがそこまで織田さんを追い詰めたんだろ!」


どうしてルカは、瑞穂を陥れようとするのか。

瑞穂自身、何の心当たりもなかった。


「織田さんと連絡を取るなって言われたとき、おかしいと思ったんだ。まさか、そういうことだったなんてな」


ルカに騙されているとも知らずに、和真は瑞穂を責め続ける。


「いじめなんて最低なヤツがすることだよ。しかも言い逃れしようとして、おまえって最悪だな」


「どうして私のことを、信じてくれないの?」

「信じるもなにも、証人もいるしな。織田さんの言ってることの方が、明らかに真実だろ」


さすがに黙っていられなくなり、瑞穂も和真に言い返す。



「だからって、浮気を正当化するの?」



瑞穂がキッと睨み付けると、和真は少しだけ狼狽えた。


「何でそれを……」

「出張中、ルカと一緒にいたんでしょ? しかも、この部屋に上げてたんじゃない?」

「いや、俺は何もしてない。織田さんからは、話を聞いただけだ」

「嘘吐かないで! 和真、ちゃんと答えて! ルカを部屋に上げたんでしょ?」


浮気について問い詰めると、頭をかきむしった和真が、投げやりな言葉を口にする。



「そんなのどうでもいいよ。どうせ別れるんだから」



別れ話に納得のいく理由なんてないだろう。

それにしたってあんまりだ。


「ねえ、和真! 正直に答えてよ!」

「もういいって言ってんだろ! 出てってくれ! 今すぐ!」


突然、和真はソファーの陰に隠れていたムギを無理矢理捕まえる。


「ちょっと! 何するの!」

「俺は猫なんて嫌いだったんだよ!」


瑞穂は止めようとしたが、和真はムギを玄関まで連れて行くと、扉の外へ放り出した。



「ギニャン」と、叫び声が聞こえてくる。



「なんてことするのっ!」



瑞穂は、和真を押し退けて外へ出る。

ムギは、共用通路の真ん中でうずくまっていた。


「ムギ、ごめんね。大丈夫?」


慌ててムギを抱き上げて、ケガをしていないか確認しようとした。

そのとき、共有通路にスーツケースが放り出される。

バンッと大きな音がして、驚いて振り向いてみると、玄関の扉が閉まるところだった。



「……待って!」



瑞穂の訴えも虚しく、ガチャンとカギが閉まる音がした。



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