7章サブ話③: 『港町異常事態─住民証言記録』
主人公は、以前から海沿いで測定器を使い続けていた。
街の人々は、その行動を日常の一風景として特に気にかけていない。
【証言記録】港町住民──Day 13
証言①:漁師・トーマス(47歳)
「もう、わからん」
「何が起きてるのか、何も」
「朝起きたら、街が静かだった」
「いつもなら市場が賑やかなのに」
「店が、半分閉まってた」
「なんでだ?」
「……海?」
「ああ、海は」
「おかしい」
「何がって言われても困るんだが」
「空気が、重い」
「波の音も、変だ」
「リズムが、ない」
「いつもは規則的なのに」
「今は……バラバラだ」
「東?」
「東には行かない」
「絶対に」
「網が五つも破れたんだぞ」
「引き裂かれたみたいに」
「魚もいない」
「何かがいる」
「何かが、あそこにいるんだ」
証言②:雑貨店主・マリア(52歳)
「店、閉めました」
「だって、誰も来ないんですもの」
「昨日から、街がおかしいんです」
「みんな家にこもってる」
「外に出たくないって」
「理由?」
「……説明できません」
「でも、わかるんです」
「何か、いけないことが起きてる」
「空気が、違う」
「重たくて、息苦しくて」
「外に出ると、胸が苦しくなるんです」
「子供?」
「ああ、あの測定器の子」
「見ました、朝早く」
「窓から何か測ってた」
「いつもやってるみたいですけど」
「……あの子、何を見てるんでしょう」
証言③:商人・ロベルト(39歳)
「荷物、動かせない」
「いや、物理的には動かせるんだが」
「なんていうか……」
「直感?」
「今、動かさない方がいい」
「そう思うんだ」
「昨日の夜から、ずっとだ」
「東の方が、光ってた」
「六時間、ずっと」
「朝までずっと光ってたんだぞ」
「そんなこと、初めてだ」
「波?」
「ああ、波がおかしい」
「リズムがない」
「怖がってるみたいだ」
「何を怖がってるのか、わからないが」
証言④:パン屋・エレナ(34歳)
「パン、焼いたんです」
「でも、誰も買いに来ない」
「朝から、一人も」
「鳥が、鳴かないんです」
「いつもなら、朝からうるさいのに」
「今朝は、静かで」
「不自然なくらい、静かで」
「子供たちも、外に出ません」
「親が止めてるんです」
「『今日は家にいなさい』って」
「みんな、わかってるんです」
「何かが、おかしいって」
証言⑤:元船乗り・ジョン(68歳)
「昔、聞いたことがある」
「大嵐の前は、こんな感じだって」
「静かで」
「重たくて」
「何かが、来る」
「でも、今回は違う」
「空は晴れてる」
「風もない」
「なのに、この感じ」
「嵐より、もっと……」
「何か、大きいものが」
「東の光?」
「見た」
「あれは、自然じゃない」
「何かが、動いてる」
「何が動いてるのか、わからないが」
「止まらない」
【記録終了】
【ギルド職員・補足メモ】
「全員が、同じことを言っている」
「『説明できないけど、おかしい』」
「『空気が重い』」
「『東が怖い』」
「これは、集団パニックか?」
「それとも……」
「九歳の子供の報告書、もう一度読み直すべきか」
「あの子が測ってる『何か』が」
「本当に、実在するのか」
「でも、信じられるか?」
「子供の、数字だけの話を」
「……いや」
「もう、信じるしかないのかもしれない」
【未解決事項】
∙なぜ全員が「説明できない異常」を感じているのか
∙東の光は何なのか
∙なぜ波のリズムが乱れているのか
∙なぜ鳥が鳴かないのか
∙この「空気の重さ」の正体は何なのか
記録者:港町ギルド支部職員
日付:Day 13
備考:
住民の集団的異常感覚を記録。
原因不明。
上層部への報告必須。
(彼らは「マナ」という概念を知らない。ただ恐怖だけが、確かにそこにある)
主人公は、周囲の困惑をよそに観測の記録を更新した。
結果として、住民たちが感じている違和感の正体は伏せられたままである。
ただ、その静寂がいつまで続くかは分からない。
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