【第2章 第3話】 バグ発生:火災と涙
マナ消費10%削減を目指した主人公の魔法実験。
その理論は完璧だったが、彼は桁一つ分の入力ミスという初歩的なバグを犯す。
その結果、光球は暴走し、部屋は虹色に染まり、小さな火災を引き起こす。
この出来事は、優しい母の心に、過去の悲劇を呼び起こしてしまう。
あれから3日。
僕は密かに、光球の効率化実験を続けてた。
アリエルさんの宿題——マナ消費を10%削減。
理論上は完璧だ。
マナ集束の無駄を省き、確率操作を最小限に、安定化だけ残す。
「よし……やってみよう」
両親は買い物に出てる。
マルタさんは1階で洗濯中。
今がチャンス。
僕は手を前に出す。
「ひかりだま」
ポン。
青い光球が浮かぶ。
(よし、次は複数同時)
効率化できたなら、複数も制御できるはず。
「もうひとつ」
ポン。
二つ目が浮かぶ。
「もういっこ」
ポン。
三つ——
「あ」
三つ目が、急に膨らみ始めた。
(え? なんで?)
光球が巨大化する。
手のひらサイズから——両手サイズ——
「まって!」
制御しようとするが、手が震える。
(くそ、2歳児の手、細かい操作できない!)
光球がさらに膨らむ。
色が変わり始める。
青から緑、緑から赤、赤から紫——
虹色に光り輝く。
「とまって!」
でも止まらない。
部屋全体が虹色に染まる。
カーテンが、壁が、天井が——
(やばい、このままじゃ——)
光球が爆発した。
ドン!
火災発生
「きゃあああ!」
1階からマルタさんの悲鳴。
僕は床に倒れてる。
頭がクラクラする。
(何が……起きた?)
煙の匂い。
見上げると——カーテンが燃えてる。
「あ……」
火が、カーテンから壁へ広がろうとしてる。
(まずい、まずい、まずい!)
僕は立ち上がろうとする——が、足がふらつく。
「助けて!」
声が出ない。
喉が震えてる。
その時、ドアが開いた。
「何事!?」
マルタさんが駆け込んできた。
彼女は一瞬で状況を理解し、水魔法を発動。
「消火!」
水流がカーテンに直撃。
ジュッ。
煙が立ち上る。
火は消えた——でも、部屋は煙だらけ。
「大丈夫!?」
マルタさんが僕を抱き上げる。
「……うん」
僕は震えてる。
怖い。
本当に、怖い。
「何をしたの!?」
「……ひかりだま」
「光球で火災!?」
マルタさんが信じられない顔をする。
その時、玄関のドアが開く音。
「ただいま——」
母の声。
「何、この煙!?」
母が階段を駆け上がってくる。
「エリス様! 坊ちゃんが魔法で——」
母が部屋に入った瞬間、動きが止まった。
焦げたカーテン。
黒ずんだ壁。
煙の残り香。
そして、床に倒れかけてる僕。
「……」
母の顔が、蒼白になった。
物理的説教
「説明しなさい」
母の声が、低い。
僕は正座させられてる。
リビングで。
父も隣に座ってる。
表情が厳しい。
「……ひかりだま、ふやそうと……」
「複数?」
「うん……こうりつか、したから……」
「効率化?」
母が眉をひそめる。
「アリエルさんの宿題」
「宿題は光球一つの効率化でしょ!? 複数なんて言ってない!」
「……」
僕は俯く。
「それで? 何が起きたの?」
「みっつめ、おおきく……」
「大きく?」
「うん……とまらなくて……」
「止まらなかった?」
母が僕の肩を掴む。
「あなた、制御できない魔法を使ったの!?」
「……ごめんなさい」
涙が出そうになる。
我慢する——でも、止まらない。
「ごめんなさい、まま……」
「……」
母が深く息を吸う。
「お母さんね」
母の声が震えてる。
「昔、先輩が魔法事故で亡くなったの」
「……え?」
「制御できない魔法を使って、マナが暴走して——」
母の目が潤んでる。
「先輩は……全身が焼けて……」
母の声が詰まる。
「最後まで、意識があったの。痛い、痛いって……」
「……」
「だから、お母さん、魔法は怖いの。理解してから使え、って言ったでしょ!?」
「……うん」
「なのに! あなたは!」
母の声が大きくなる。
「勝手に実験して! 火災起こして! もし誰もいなかったら!?」
「……」
「家が全焼してたかもしれない! あなたが死んでたかもしれない!」
母が僕を抱きしめる。
強く。
「もう……やめて……」
母が泣いてる。
「お母さん、怖かった……」
「……ごめんなさい」
僕も泣く。
本能的に、泣いてる。
我慢できない。
「ごめんね、まま……ごめんね……ぼく、わるい子……」
「悪い子じゃないわ」
母が僕の頭を撫でる。
「ただ……無茶しすぎるの」
「……」
「もう、こんなこと、しないで」
「うん……」
僕は母の胸に顔を埋める。
暖かい。
安心する。
でも、罪悪感が消えない。
原因分析
その夜、父の書斎。
僕は羊皮紙に図を描いてる。
「……ここが、まちがえた」
父が横で見てる。
「どういうこと?」
「かず……まちがえた」
僕は震える手で、数字を指す。
「radius: 0.5……でも、ぼく、5.0って……」
「桁を間違えた?」
「うん……」
(プログラマーとして、最低のミスだ)
桁ミス。
10倍の誤差。
それが光球を暴走させた。
「それで、光球が巨大化したのか」
「うん……せいぎょ、できなくて……」
「……」
父が深いため息をつく。
「お前、頭はいいけど、体がまだ追いついてないんだ」
「……うん」
「だから、焦るな」
父が僕の頭を撫でる。
「お前のペースで、ゆっくりやればいい」
「でも……」
「でも?」
「はやく、つよく……」
「なりたいのか?」
「うん……かぞく、まもりたい」
父が微笑んだ。
「ありがとう。でも、今は守られる側でいいんだ」
「……」
「お前が元気でいてくれることが、一番大事なんだよ」
父が僕を抱きしめる。
「だから、無理するな」
「……うん」
新しいルール
翌日、家族会議。
リビングに全員集合。
父、母、マルタさん、そして僕。
「今回の件を受けて、新しいルールを作る」
父が宣言する。
「一つ。魔法実験は、必ず大人の監視下で行う」
「……うん」
「二つ。実験内容は事前に報告する」
「……うん」
「三つ。危険と判断した実験は中止させる」
「……うん」
僕は素直に頷く。
反論の余地がない。
「それと」
母が言う。
「地下に、実験部屋を作るわ」
「え?」
「魔法実験用の、安全な部屋」
「……いいの?」
「ダメって言っても、あなた、やるでしょ?」
母が苦笑い。
「だったら、安全にできる場所を作る」
「まま……」
「ただし、ルールは守ること」
「うん!」
僕は嬉しくて、母に抱きつく。
「ありがとう、まま!」
「もう、この子は……」
母が笑いながら、僕を抱きしめる。
でも、その目は少し潤んでる。
ガルムの雇用
その日の午後。
父が獣人の男性を連れてきた。
「こちら、ガルムさん。倉庫の警備をお願いしてた方だ」
「はじめまして」
ガルムが礼儀正しく頭を下げる。
「今後、君の訓練も手伝ってもらう」
「え?」
「魔法の暴走を、物理的に止める役割だ」
父が説明する。
「万が一の時、君を守るため」
「……」
僕はガルムを見上げる。
彼は優しそうな目をしてる。
「よろしく、坊ちゃん」
「……よろしく」
僕は小さく頭を下げる。
(また、心配かけちゃったな)
その夜
寝る前、母が本を読んでくれる。
「今日は怖かった?」
「うん……」
「お母さんも怖かったわ」
「ごめんね」
「もう謝らなくていいの」
母が微笑む。
「ただ、これからは気をつけてね」
「うん」
「あなたは特別だから、危険も多いの」
「とくべつ……」
「でも、それは悪いことじゃない」
母が僕の頬に触れる。
「お母さんとお父さんは、あなたを信じてるから」
「……」
「だから、自分も信じて。ゆっくりでいいから」
「うん」
母が部屋を出る。
僕は天井を見上げる。
(桁ミス、か)
プログラマーとして、恥ずかしいミスだ。
でも、これで学んだ。
理論だけじゃダメだ。
身体も、制御も、全部大事。
(次は、ちゃんとやる)
眠る前、僕は誓う。
(もう、母さんを泣かせない)
エピローグ
その夜、デモン監視システム。
新しいデータが追加された。
```
【異常個体:追跡記録】
年齢:2歳
事象:魔法暴走による火災
結果:家族による制御成功
評価:危険度 中→高
監視頻度:月次→週次
備考:実験部屋設置により暴走リスク低減の可能性
対応:観察継続
```
水晶球が脈動する。
システムが、静かに記録を続ける。
そして——
遠くで、別の存在が目を覚ました。
デモンシステムよりも、さらに深い場所。
「面白い子だ」
低い声。
「まだ2歳で、この暴走。成長が楽しみだ」
影が、微かに笑う。
「世界を乱すバグは——育てるに限る」
僕は、まだ知らない。
この世界には——デモンシステムより、もっと恐ろしい存在がいることを。
そして、その存在が——僕に興味を持ち始めたことを。
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第3話 完
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桁ミスによる魔法暴走と火災。
母の涙と深い悲しみを受け、主人公は実験をルール化し、家族会議で「地下の実験部屋」を勝ち取る。
一方、彼の異常な成長は、世界の監視システムであるデモンシステム、そしてさらに深い場所の存在にまで注目されることになる。
最適化された選択は、次にどんな形で世界から返ってくるのか。
次回 第2章 第4話 世界の裏側とコアの謎
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