【第7章 第12話】 パターンの中に
法則のない混乱など、この世界には存在しない。
不規則に明滅する青白い光も、解析のメスを入れれば、それは塔が上げる「悲鳴」という名の演算データに変わる。
外出を禁じられた部屋の中で、レイは窓越しに世界のバグを凝視し続けていた。
四日目の朝。
ノートを開く。
『一日目: 9時, 10時, 11時(5分, 15分, 20分)』
『二日目: 9時, 10時, 11時(10分, 20分, 25分)』
『三日目: 9時, 10時半, 11時(15分, 25分, 30分)』
「……あ」
セラフィナが覗き込む。
「どうしました?」
「時間が、ずれてる」
「ずれてる?」
「最初は毎時ちょうど。でも、だんだん早くなってる」
指でなぞる。
「間隔も詰まってる。最初は1時間、今は30分」
「……加速してるんです」
「そう! これ、法則だ!」
ノートに書き込む。
『発光間隔:短縮傾向。持続時間:増加傾向。』
「面白い……パターンがある」
その夜。
窓から海を見る。
八時半。
遠くで、青白い光。
「来た!」
測定器v2を起動。東に向ける。
明滅が始まる。
「……三回、休み、二回」
セラフィナが身を乗り出す。
「リズムがあります」
「うん!」
紙に書く。
『●●● _ ●●』
光が消える。
『8時半開始。持続18分。』
「前より長い」
九時。
また光る。
「また同じパターン!」
『●●● _ ●●』
「三回、休み、二回……これ、暗号みたいだ」
消えた。
『持続20分』
「さっきより2分長い」
「同じ夜の中でも……」
「増えてる!」
ノートを見る。
「これ、悪化のスピードが測れる」
セラフィナが頷く。
「データとして、記録できますね」
「そう。これをギルドに渡せば……」
2人で顔を見合わせる。
「説得力、出る」
翌朝。
図書館に向かう。
古代史のコーナー。
『Cycle 2の遺産』を開く。
ページをめくる。
「……お」
指が止まる。
『施設が機能不全に陥った場合、蓄積されたマナが漏出する』
「これだ」
セラフィナが横から見る。
「マナが漏れてる……」
「塔は壊れかけてる。だからマナが外に出て、光ってるんだ」
別のページ。
『施設の保守には、特定の記号配列が必要』
「記号配列……塔の刻印のこと?」
「たぶん。でも、全部は写せなかった」
本を閉じる。
「でも、原因は分かった」
「はい」
「塔が限界に近づいてる。だから、光が長くなってる」
「じゃあ……」
「悪化してる。確実に」
その夜。
また観測。
光る。
測定器が反応。
「……あれ?」
「どうしました?」
「パターンが変わった」
『●●●● _ ●』
「四回、休み、一回」
紙に書く。
「昨日と違う……なんで?」
消えた。
『持続22分』
一時間後。
また光る。
「今度は……」
『●● _ ●●● _ ●』
「……もっと複雑になってる」
全部記録する。
消えた。
『持続25分』
「変化してる」
セラフィナが考える。
「パターンが変わるのは……」
「塔の状態が変わってる証拠かも」
2人で推理する。
「最初は規則的だった」
「今は複雑になってる」
「つまり……」
「不安定になってる」
「そうか」
ノートに書く。
『仮説:パターン複雑化 = 塔の不安定化』
翌日。
ギルドに向かう。
担当者の部屋。
「追加の記録です」
ノートを渡す。
男性が読む。
「……本当に、毎晩記録してるのか」
「はい」
「持続時間、パターンの変化……」
ページをめくる。
「すごいな。これだけあれば……」
男性が考え込む。
「調査団の到着を早められないか、上に聞いてみる」
「本当ですか!」
「ああ。約束はできないが」
「ありがとうございます」
「それと、これ」
紙を渡される。
「何ですか?」
「漁師組合からの報告だ。昨夜、東の沖で大きな波が起きた」
「波……」
「光と同時だ」
紙を見る。
「じゃあ、波も……」
「塔の影響かもしれない。確かめてみろ」
港を抜ける。
岩礁に向かう。
「波が起きた……ここで何か見えるかな」
岩に近づく。
「……あ」
岩の表面。
削れている。
「これ……」
「岩が削られてます」
触る。
「新しい傷だ。ざらざらしてる」
海を見る。
海藻が、異常に少ない。
「ここ、前はもっと海藻あったよね」
「はい。今は……」
「ほとんどない」
測定器を取り出す。起動。
東に向ける。
光が灯る。明るい。
「……前より、明るい」
「マナ濃度、上がってます」
方向を変えてみる。
東:眩しい。
南:やや明るい。
西:暗い。
「東が一番強い。やっぱり、塔から広がってる」
ノートに記録。
『岩礁の変化:岩が削れてる。海藻減少。マナ濃度:東が最高。影響範囲拡大中。』
「これも、ギルドに報告しよう」
「はい」
その夜から、記録を続ける。
七時半。光る。
『●●● _ ●● _ ●』
持続:25分。
九時。光る。
『●● _ ●●●● _ ●』
持続:28分。
十時半。光る。
『● _ ●● _ ●●● _ ●●』
持続:30分。
「……どんどん複雑になってる」
ノートがいっぱいになる。
「法則、見えないかな」
2人で考える。
「パターンに規則性は……」
「分からないです」
「でも、記録は続ける」
「はい」
ノートをめくる。
三冊目の最後のページ。
『十日目。持続40分超。』
「一週間で、ここまで……」
ギルドへの報告。三回目。
担当者が驚く。
「……君、本当に毎晩記録してるのか」
「はい」
「すごいな」
ノートを見る。
「これだけあれば、調査団も動きやすい」
「よかったです」
「ただし」
真剣な顔。
「調査団の到着は、まだ二週間以上先だ」
「……はい」
「その間、何が起きるか分からない。気をつけろ」
「分かってます」
十日目の夜。
観測。
光る。
『●●●●●●●●』
「……八回連続」
休みなく、また。
『●●●●●●●●』
「休みがない!」
持続時間も、五十分。
「……これ」
セラフィナが気づく。
「限界に近づいてる?」
「たぶん」
測定器を見る。
明るさが揺らいでいる。
「マナが不安定になってる」
「これ、やばいです」
「うん……」
翌朝。
ギルドに走る。
「緊急です!」
担当者の部屋。
「光のパターンが連続になりました。持続時間も五十分です」
ノートを渡す。
男性が読む。
「……これは」
「限界に近づいてると思います」
立ち上がる。
「分かった。今すぐ、上に報告する」
「お願いします」
「君たちは、宿にいろ。外出は控えろ」
「……はい」
部屋に戻る。
窓から海を見る。
「外出禁止か……」
「仕方ありません」
「でも」
測定器を起動。
「窓から測れる範囲で、試せることはある」
「試せること?」
「方向別の測定。東だけじゃなく、南も西も測ってみる」
紙に書く。
『方向別マナ濃度測定計画』
「これで、影響範囲が分かる」
セラフィナが微笑む。
「レイは、諦めませんね」
「諦めてないわけじゃないよ。ただ、やれることを、やってるだけ」
「それが、諦めない、ということです」
「……そうかな」
夜。
また光る。
六十分。
「一時間……」
パターンも、連続。
『●●●●●●●●●●●●』
「休みが、ない」
記録する。
「壊れるかも」
「……はい」
「でも」
測定器を向ける。
東、南、西。
データを取る。
「明日、また測ろう」
「はい」
「パターンが分かるまで」
2人で頷く。
光のパターンに法則があることに気づいたレイ。
データは蓄積され、悪化の証拠は揃う。
そして、塔の限界が近づく中——
外出禁止を告げられても、2人は諦めない。
「窓から測れる範囲で、試せることはある」
記録は続く。
解明への挑戦は、まだ終わらない。
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第7章 第12話 完
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蓄積された観測ログが、塔の「寿命」を容赦なくカウントダウンしていく。
もはや一刻の猶予もない。それでもレイは、震える測定器の数値をなぞり、その奥に隠された「修復への糸口」を懸命に探り当てる。
次にレイは、限界を迎えた塔の鼓動から、何の「解」を引き出すのか。
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