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転生プログラマーが魔法をデバッグしたら、世界OSから監視される件 ―6歳幼児が異世界の仕様をハックし始めた  作者: プラナ
境界線の観測者 ―身分なき少女と、許可深度を超過した少年の2週間―
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【第7章 第10話】 刻印の記録

昨日より今日、今日より明日。

塔の刻印に触れるたび、世界の「記述」が書き換わっていくような感覚があった。

ただの調査のつもりが、いつの間にか未知の巨大なシステム——その再起動の瞬間に立ち会っているのではないか。

窓から朝日が差し込む。目が覚める。


「……今日こそ、全部写す」


ノートを開く。昨日の記録。


『塔の刻印。魔法陣記号に類似?要確認。』


「昨日は中心だけだった。今日は周りも」


測定器を手に取る。起動確認。問題なし。


予備の紙を何枚か用意する。鉛筆も。


「防水袋……」


昨日使った袋を確認。まだ濡れている。


「乾かさないと」


窓辺に置く。


部屋を出る。


セラフィナが廊下で待っている。


「おはようございます」


「おはよう」


「今日も、行くんですね」


「うん。刻印、全部写したい」


「……レイ」


セラフィナが真剣な顔になる。


「昨日、危なかったです」


「……うん」


「気をつけるだけでは、不十分です」


「じゃあ、どうすれば?」


「時間を決めましょう。潜水は5分まで」


「5分……短くない?」


「短いですが、安全です」


「……わかった。約束する」


セラフィナが少し安心した顔になる。


食堂で朝食を取る。パンと、スープ。


「測定器、持ってくんでしょ?」


「うん」


「見せて」


測定器を取り出す。起動。


食堂の中では、普通の明るさ。


「昨日より、暗くない?」


「宿の中だからです。外に出れば、また明るくなります」


「そっか」


測定器を消す。


宿を出る。空は曇っている。


「天気、悪いね」


「はい。でも、雨ではありません」


「雨だったら、中止?」


「中止です。水中で視界が悪くなります」


港を抜ける。岩礁に向かう。


足元は、昨日と同じく濡れている。


「滑らないように」


「分かってる」


慎重に歩く。


岩に着く。靴を脱ぐ。


足を水に浸す。


「……やっぱり冷たい」


「慣れれば大丈夫です」


膝まで浸かる。魔法陣を取り出す。


空気収集魔法。昨日作ったもの。


「起動」


手をかざす。光が灯る。


顔の周りに、空気の層ができる。


「よし」


測定器も持つ。


「じゃあ、行ってくる」


「5分です」


「うん」


深呼吸。水に潜る。


水中。視界は、昨日より少し暗い。曇り空のせいだ。


「でも、見える」


測定器を起動。光が周囲を照らす。


東へ泳ぐ。塔が見える。


巨大な石の構造物。


「近づこう」


ゆっくり泳ぐ。測定器の光が強くなる。


「やっぱり、濃い」


塔に近づく。表面の刻印が、はっきり見える。


幾何学的な模様。


「これ……」


手を伸ばす。石に触れる。


冷たい。微かに震動している。


石の表面は滑らかだ。海底なのに、侵食されていない。


「不思議……」


刻印をよく見る。複数の記号が、規則的に並んでいる。


「これ、『マナ』に似てる」


中心に、渦のような記号。


「それと……周囲に、円形の記号」


「『安定』?」


正方形に似た記号もある。


「でも、ちょっと違う。『持続』かな?」


円環のような記号。


「写さないと」


紙と鉛筆を取り出す。防水袋から。


「まず、中心から」


渦のような記号を描く。手が震える。


「……落ち着いて」


慎重に描く。


突然、測定器の光が揺らぐ。


「……え?」


昨日と同じ。光が明滅を始める。


「また……」


周囲のマナが、波打っている。


「やばい」


紙を袋に戻す。


「戻らないと」


しかし。


「……あれ?」


空気の層が、薄くなっている。


「早い。昨日より、早い」


測定器を見る。光が激しく明滅している。


「マナが……暴れてる?」


息が苦しい。


「戻る!」


上を向く。水面が見える。


泳ぐ。でも、息が続かない。


「……っ」


必死に泳ぐ。水面まで、あと少し。


「はぁっ……」


水面に出る。大きく息を吸う。


「……間に合った」


岩に掴まる。


「レイ!」


セラフィナが駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」


「……うん。でも、昨日より早かった」


「早かった?」


「マナが、すぐ揺れた」


測定器を見せる。まだ、明滅している。


「……これは」


セラフィナが測定器を見る。


「レイ、塔が……」


「うん。悪化してる」


岩に戻る。防水袋を開ける。紙を取り出す。


「描けた……?」


紙を見る。渦のような記号が、描かれている。


「中心だけ」


「それでも、よく描けました」


セラフィナが紙を見る。


「これは……『マナ』です。間違いありません」


「やっぱり」


ノートを開く。『マナ』の記号を見る。


「似てる」


「似てるだけではありません。同じです」


「……同じ?」


「はい。塔の刻印は、魔法陣の記号と同じです」


「じゃあ、塔は……」


「巨大な魔法陣かもしれません」


「もし、塔が魔法陣なら……何をしてるんだろう?」


「何かを、安定させているはずです」


セラフィナが続ける。


「マナを?」


「おそらく」


「でも、今は不安定」


「はい」


「……なんで?」


「分かりません。記号が、壊れているのかもしれません」


「壊れてる……」


考える。


「じゃあ、直せる?」


「……レイ」


セラフィナが真剣な顔になる。


「それは、危険です」


「でも」


「レイが触れられるのは、Level 1です。塔は、それより大きいです」


「……そうだね」


頷く。


「じゃあ、別の方法は?」


「……思いつきません」


セラフィナが困った顔をする。


「私も」


黙る。


「……ギルドに報告するしかないね」


「でも、信じてもらえるかな」


「……難しいです。子供の証言だけでは」


セラフィナが認める。


「証拠は?」


紙を見る。


「これだけ」


「……不十分です」


「じゃあ、もっと写す?」


「危険です。レイ、昨日より悪化してます」


セラフィナが止める。


「次は、もっと早く揺れるかもしれません」


「……」


黙る。


突然。海が波立つ。


「……何?」


波が高くなる。


「レイ、離れてください!」


セラフィナが叫ぶ。


岩から離れる。波が岩に打ち付ける。


「何が起きてるの?」


測定器を見る。光が激しく明滅している。


「マナが……」


「塔です」


セラフィナが東を見る。


「塔が、何かを……」


遠くで、光が見える。青白い光。海中から。


「塔が、光ってる……」


測定器の光も、連動するように明滅する。


「共振してる」


測定器の光と、塔の光が、同じリズムで点滅している。


「レイ、ここは危険です」


「でも」


「今すぐ、離れてください」


セラフィナが手を引く。


「早く!」


走る。岩礁を離れる。


港に着く。漁師たちが集まっている。


「また何か?」


近づく。


「坊主、見たか?」


漁師が振り返る。


「海が光ってた」


「……見ました。さっき、岩礁で」


「岩礁に行ってたのか?」


「はい」


「危ないぞ」


漁師が心配そうな顔をする。


「今朝も、網が破れた」


「また?」


「ああ。もう、五つ目だ」


「それに」


漁師が声を潜める。


「誰も、東の沖に近づかなくなった」


「怖いからか?」


「ああ。魚も、いないしな」


宿に戻る。部屋で、ノートを開く。


「……報告しないと」


「はい」


セラフィナが頷く。


「信じてもらえなくても、報告はすべきです」


「……そうだね」


鉛筆を取る。報告書を書く。


『港町東の岩礁先端、海中に古代遺跡を確認。マナ濃度異常。測定器が明滅。刻印に魔法陣記号を確認。海域で発光現象、波の異常。漁師の網破損が続く。調査が必要と思われます。』


「これで、いい?」


セラフィナが読む。


「……いいと思います」


「明日、ギルドに行こう」


「はい」


窓から、海を見る。月が雲の間から見える。


「……また、光ってる」


遠くで、青白い光が点滅している。昨日より、頻繁だ。


「どんどん、悪くなってる」


測定器を取り出す。起動。


手元で、反応している。


「宿の中でも、反応するようになった」


ノートに記録。


『発光頻繁化。測定器宿内反応。塔活発化。明日報告。』


「……間に合うかな」


「間に合わせないと」


セラフィナが言う。


「はい」


頷く。


ノートを見返す。刻印の写し。『マナ』の記号。


「他の記号も、写したかった」


「今は、無理です」


「……うん」


ページをめくる。魔法陣の設計図が並ぶ。


「もっと、深く潜れる魔法が必要だな……記号の組み合わせは……」


考え込む。


「レイ……」


「今は作らないよ」


笑う。


「ギルドが動いてくれるかもしれないし」


「……そうですね」


セラフィナが微笑む。


ベッドに横になる。天井を見る。


「セラフィナ」


「はい」


「ギルド、動いてくれるかな」


「……分かりません」


「もし、動いてくれなかったら?」


「その時は……」


セラフィナが言葉を探す。


「その時は、私たちで何とかしましょう」


「……うん」


少し安心する。


「おやすみなさい、セラフィナ」


「おやすみなさい、レイ」


刻印の一部を写し取ることに成功するも、


塔の不安定化はさらに進行。


マナの揺らぎは激化し、


海域では発光現象と波の異常が観測される——


ギルドへの報告を決意するレイとセラフィナ。


しかし、子供の証言は信じてもらえるのか?

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第7章 第10話 完

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観測データは揃いつつある。しかし、それが示す結論は、一介の子供が扱うにはあまりに巨大すぎるものだった。

大人の論理が支配する「ギルド」という組織に対し、この異常をどう定義し、突きつけるべきか。


次にレイは、どの「言葉」を選んで大人たちをハックしにいくのか。


よろしければ、

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