【第7章 第7話】 中心の特定
データが指し示したのは、海の底に眠る静かな「過去」の遺物だった。
論理を武器に一歩ずつ踏みしめる足元で、失われたはずの古代の息吹が、微かに、だが確実に脈動を始める。
──好奇心の先にある扉が、音もなく開きかけていた。
朝の準備
「見て、これ!」
レイが朝食前から測定器を弄っている。
紙の上で光が明滅する。
「まだ寝てないんですか?」
セラフィナが呆れた顔で部屋に入ってくる。
「寝たよ。でも、早く試したくて」
レイが笑う。
「昨日の測定、面白かったから」
「……楽しそうですね」
セラフィナが微笑む。
「今日は、宝探しだ」
レイが地図を広げる。
港を中心に、8方向の測定点。
「8箇所測れば、中心が分かる」
「はい。放射状に測定しましょう」
二人は地図を囲む。
北、北東、東、南東、南、南西、西、北西。
「どこが一番濃いか、当ててみる?」
レイが楽しそうに言う。
「東だと思います」
セラフィナが即答。
「え、なんで?」
「昨日、港で測った時。東側が明るかったです」
「……よく見てたね」
レイが感心する。
「じゃあ、確かめよう」
測定開始
最初の測定点。
港から北に100メートル。
洗濯物が干してある路地の前。
レイが測定器を起動する。
光が灯る。昨日の港より、少し暗い。
「北は、やや薄い」
ノートに記録。
「次、北東」
港から北東。
魚市場の裏手。
起動すると——
「おお!」
光が明るくなる。
「こっちの方が濃い!」
レイが興奮する。
「東寄りですね」
セラフィナが地図に印をつける。
「やっぱり東かも。次!」
港から東。
海沿いの道。
波の音が近い。
起動。
光が——
「……うわ」
レイが目を細める。
今までで一番明るい。
測定器が、ほとんど眩しいくらいだ。
「ここだ!」
「東が最大です」
セラフィナも驚いた顔になる。
「ダンジョン、海の中じゃない?」
レイがノートに大きく「東:最大」と書く。
「でも、念のため全部測ろう」
「はい」
残りの5方向も測った。
南東、南、南西、西、北西。
予想通り、東から離れるほど薄くなる。
特に西は、かなり暗い。
「完全に東だ」
レイが地図に全ての測定値を書き込む。
東が、圧倒的に濃い。
「港から東に……」
セラフィナが海を見る。
「海の中」
二人は顔を見合わせる。
「海中ダンジョンか」
「そうです」
レイが地図を睨む。
「どうやって入るんだろう」
午後の探索
「港の人に聞いてみよう」
レイとセラフィナは、港の船着場に向かう。
漁師たちが網を干している。
「すみません」
レイが声をかける。
「この辺で、変わったことありませんか?」
「変わったこと?」
漁師が首を傾げる。
「海の様子とか」
「……ああ」
漁師が思い出したように言う。
「最近、東の沖に近づくと、魚が逃げる」
「逃げる?」
「そうだ。まるで、何かを恐れてるみたいに」
レイとセラフィナが同時に「東だ」と呟く。
「どの辺ですか?」
「あの岩礁の先だ」
漁師が指差す。
港から東に、岩が点在している。
「あの辺は、昔から漁師が避ける場所でね」
「なぜですか?」
「流れが変だ。引き込まれるって、じいさんたちが言ってた」
レイがノートに記録する。
岩礁の先。流れが変。
「ありがとうございます!」
岩礁の観察
港から岩礁まで、歩いて20分。
潮が引いている時間だ。
「あそこだ」
レイが岩礁を指す。
大きな岩が、海に突き出している。
「行こう」
「レイ、気をつけて。滑りますよ」
二人は慎重に岩場を進む。
足元が濡れている。
岩礁の先端。
海を見下ろす。
水は、意外と透明だ。
「……待って」
レイが立ち止まる。
「下に、何かある」
「え?」
セラフィナも覗き込む。
水深3メートルくらい。
海底に、何か——
「これ……」
レイの目が見開かれる。
「人工物だ」
四角い石。
規則的に並んでいる。
光が当たると、表面に文字のようなものが見える。
「遺跡……?」
「古代の施設です」
セラフィナが真剣な顔になる。
「でも、変ですね」
「何が?」
「こんな浅い場所に作るなんて」
「……確かに」
レイが測定器を取り出す。
起動。
光が——
「っ、眩しい!」
今までで最も明るい。
目を開けていられない。
「ここだ。絶対ここだ!」
レイが興奮する。
「ダンジョンの入口、あの下にある!」
帰り道の相談
宿に戻る途中。
二人は話し合う。
「海中遺跡か」
「はい。古代の施設です」
「どうやって入る?」
「……潜水、ですかね」
「危なくない?」
「とても」
レイがノートに疑問符を書く。
「魔法で、空気を作れないかな」
「空気を……」
セラフィナが考える。
「『変換』で酸素を生成?」
「あ、それ!」
レイが前のめりになる。
「水を『光』の記号で熱して、酸素と水素に……」
「待って、それ爆発します」
「……あ」
レイが固まる。
「他には?」
「水を避ける魔法……『制御』と『放出』で水流を……」
「でも、レイは習ってません」
セラフィナが言う。
「図書館に行きましょう」
「図書館?」
「古代の海中施設なら、記録があるかもしれません」
「……そうだね」
レイが頷く。
「明日、調べよう」
夜の整理
自分の部屋。
レイはノートを広げている。
今日の測定結果を、地図に書き込む。
東が最大。
海底遺跡。
進入方法不明。
ノックの音。
「はい」
ドアが開く。セラフィナだ。
「お疲れ様です」
「うん、お疲れ様」
セラフィナが椅子に座る。
「今日、楽しかったですね」
「楽しかった!」
レイが笑う。
「測定器が、あんなに明るくなるなんて」
「はい。驚きました」
「海底に遺跡があるって、すごくない?」
「すごいです」
セラフィナも微笑む。
「でも、どうやって入るか……」
「明日、図書館で調べましょう」
「うん」
レイがノートを閉じる。
「古代の海中施設……私、どこかで聞いたことが……」
セラフィナが額に手を当てる。
「え? 覚えてるの?」
「分かりません。でも、何か……」
セラフィナが困った顔になる。
「思い出せません」
「無理しなくていいよ」
レイが言う。
「明日、図書館で調べれば分かる」
「……そうですね」
セラフィナが立ち上がる。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
ドアが閉まる。
レイは窓を見る。
月が、海に映っている。
遠くで、何かが光ったような気がした。
測定器が、手元で微かに反応している。
「……気のせい?」
でも、光は消えている。
レイはノートを開く。
明日、図書館だ。
答えが、必ずある。
マナの中心を特定し、東の海底に古代遺跡を発見
進入方法を探して図書館へ——
だが、セラフィナの記憶に残る断片と、
海の異変が、何かを示唆する。
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第7章 第7話 完
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眩い光を放った測定器と、セラフィナの脳裏をかすめた断片的な記憶。
海に沈んだ遺跡は、単なるダンジョン以上の「何か」を秘めている。
次に主人公は、海底へと続く鍵を求めて“記録の山”へと挑む。
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